転移のない早期前立腺がんの標準的な治療の一つに古くからある手術があります。古くからありますが、もともと前立腺が骨盤の一番奥底にあるために開腹手術は難しい手術でした。お臍から下にまっすぐ10−15cmほどの傷をつけ、覗き込・むように手術をしていましたが、前立腺周囲からの出血も多い事から、さらに難しい手術で、結果的にひどい尿もれ、性機能障害(勃起不全)が起きることも多いのが現状でした。私が医師になった30年以上前にも稀に手術がありましたが、大変な手術だという印象が強く、先輩方は頑張っているものの本当に患者さんのためになっているのかと疑問も持ったりしました。その後、腹腔鏡の手術が出てきました。これはお腹に穴を数個開けて、二酸化炭素をお腹に入れて膨らませて特殊な鉗子で手術する方法です。今でも泌尿器の腎臓・副腎の手術、婦人科の手術、消化器外科の手術(胆嚢など)で標準的な手術となっています。前立腺がんの手術でも開腹手術と違い、出血は少ないし、良く見える手術となり大いに期待されました。しかし、長い鉗子を操って膀胱と尿道を繋げる縫合をしたりすることは容易ではなく、結果として必ずしも尿失禁の結果も完璧ではありませんでしたし、手術を習得するのにもかなりの時間を要しました。その後、2000年に米国で出たのが今のロボット手術です。お腹に6個の小さい穴を開け、特殊な鉗子を入れて、それらの鉗子にロボットの腕部分を付けて術者が離れたところから(サージャンコンソール)、操作して手術をします。1)約10倍に拡大して良く見える、2)3Dで見える、3)鉗子操作が容易で自分の手で手術しているかのような繊細な手術が可能、4)カメラを自分で動かすので見たいところをみたい様に見える、5)手振れがない、などの利点があります。ロボットは米国のIntuitive社のダヴィンチシステムが独壇場の世界で、日本でも約300台のダヴィンチが稼働しています。
良く見える繊細な手術が可能となり、結果的に尿失禁の改善は早く、性機能障害の回復も(神経を温存すれば)早くなりました。私自身、多くの手術を担当させてもらい、とうとう1000人を超えました。また、このことがきっかけで三鷹市にこの病院を設立することになりました。現在、手術以外にも外放射線、内放射線(小線源)治療もありますが、ロボット手術が患者さんにとって、最もスッキリ感のある良い治療と感じています。体にメスを入れるということは大変なことであり勇気がいりますが、ロボット手術は放射線と比較しても実は優しい治療ではないかとも感じています。