ひとつむぎの手

Dr. Ohori

ひとつむぎの手

「ひとつむぎの手」知念実希人著(新潮文庫)を読みました。まさしく、医療版の半澤直樹と言う感じで、とても面白かったです。白い巨塔の中での若い医師の理想と現実を描いているのだと思います。本の中に出てくる典型的な白い巨塔の構図、野心満々の教授、出世を企んでその教授にヘコヘコする医者などは、強調されている部分はあるにしても実際にあるなーと思う場面がほとんどです。この主人公の様に、寝る間もなく働いている若手・中堅の医師が支えている部分も大きいと感じます。白い巨塔は日本独特かもしれません。米国ではゼロではないかもしれませんが、少ないのかなと思います。一番違うのは教授の選び方です。米国では他者推薦から始まり、1−2年かけて選びますが、選ぶのも日本の様に教授会で選挙の様に選ぶのではなく、選考委員が何度も面接を繰り返して決めていきます。単に論文数とかではなく、その人の評判・推薦状・学会での活躍などなど、履歴書だけでは計り知れない部分を見て決めます。日本では、いまだに、まず出身大学がどこかが入り口になってしまいます。教授会の教授たちも自分が忙しい中で、他の科の教授が誰になっても興味はありませんので出身大学や業績を見て決めます。また教授会のプレゼンテーションの一発で決まることもあります。結果として、外科系の教授選考なのに手術のできない人を選んだりということになってしまいます。米国で多くの偉い医師を見てきましたが、例外はなくはないですが、多くの教授が紳士淑女(少なくとも表面上は)でキレキャラはいませんし、臨床の教授はそれなりの臨床の実力を持っています(当然過ぎますが)。日本でも臨床・教育・研究と三拍子揃っているのが良いとされますが、実際は研究のみ、という人が選ばれることもまだあります。ですから臨床の教授なのに基礎の研究で評価されて教授になる人も多くいます。選ぶ教授会の面々もそうやって選ばれた人がいますので、それを評価するのも当然です。 日本人の勤勉さ、患者への優しさなどは世界有数だと思っていますので、この肝心のシステムが良くならないのがいつも残念でなりません。多分、どの世界でも「半沢直樹」的な話はあって、それが日本なんですね、きっと。

Share