泌尿器科レクチャー:溢流性尿失禁

Dr. Ohori

泌尿器科レクチャー:溢流性尿失禁

 以前、尿失禁のタイプで腹圧性、切迫性を説明しましたが、今回は溢流(いつりゅう)性です。溢流というのは、あふれ出る、という意味で言葉通り、膀胱内に多くの尿が溜まり過ぎてあふれて漏れることです。原因には前立腺肥大症、骨盤臓器脱、糖尿病、脊椎疾患、抗コリン薬などの薬剤の影響などがあります。一番、多いパターンは前立腺肥大症による尿閉です。特にかなりご高齢の方に多いですが、「最近、やけにちょろちょろ尿が漏れるんだ」ということで来院され、超音波などでみてみると、膀胱が尿でパンパンに腫れていて「それは出てはいるけど出にくいから結果的に漏れているだけですよ」ということになります。通常は急性の尿閉の場合、お腹が痛くてどうしようもなくなり救急車騒ぎになることが多いですが、じわじわ残った尿が増え慣れてしまうといつの間にか大量の残尿となり、失禁になってしまうことがあります。「お腹痛くないんですか?」と聞いても「いや、なんとなく張った感じはあるが痛くないよー」となります。

問題は治療方法です。尿閉による溢流性失禁はまず尿道カテーテルを入れます。カテーテルは誰しも入れたくありませんが、溢流性尿失禁を放置しておくと、腎臓まで影響が出て腎不全になってしまうことさえあります。まず、カテーテルを1〜2週間入れて膀胱を休ませ、腎機能が悪い人は腎機能も慎重に見ていきます。そして1〜2週間後にカテーテルを抜いてみて、自分で排尿が出来て、残尿も少ないかどうかをみます。しっかり自分で排尿ができる様であれば、前立腺肥大症のお薬などを飲みながら慎重にみていきます。しかし、むしろうまくいかないことの方が多いです。なぜかというと、膀胱の残尿が800cc〜1リッター〜2リッターなど大量に溜まってしまっていることが多く、しかも何週間とそういう状態であることもあるので、そうなると膀胱の末梢神経が損傷され膀胱がうまく収縮できなくなります。重症の糖尿病、直腸がん・子宮がんの手術後なども同様に末梢神経障害で同様の尿失禁が起きることがあります。 こういう場合は、もう一度尿道カテーテルを入れるか、ご自分で細い管を尿から入れて残尿をとる自己導尿を怯えてもらいます。自己導尿は想像し難いかもしれませんが、意外とすぐ慣れますし、想像されるよりは楽で痛みもない(一時的な不快感はあるかもしれませんが)ものです。1日に4〜6回は実施してもらうことが多いです。明らかに前立腺肥大症が元の原因である場合で、自分での排尿が期待できそうな時には肥大症の手術をすることもあります。その他、原因となっている糖尿病の治療、脊椎疾患の治療をしてもあることもあります。

気をつけて頂きたいのは、尿が近い(頻尿)でクリニックを受診し、抗コリン薬を出される時です。特に男性の場合は前立腺肥大症を持っている方が多いので、抗コリン薬は膀胱に効くので、頻尿は少し良くなっても結果的に残尿を増やしてしまうことがあります。泌尿器科医は尿の勢いが良い、残尿が少ない、でも頻尿だという方に抗コリン薬を出すので問題ありませんが、そういう確認なしで抗コリン薬を飲んで結果的に出にくさを感じたら、担当医師に言ってすぐやめるべきです。

いすれにしても尿が漏れることがあれば、近くの泌尿器科を受診し、どういう原因でどういうタイプの失禁かを診断してもらうのが肝要です!!

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