全摘後、血液のPSAが0.2を明らかに超えて再発と判断された後の治療は大きく3つとなります。1)ホルモン治療(内分泌治療)、2)放射線、3)経過観察です。 再発なのになぜ3)経過観察という選択肢があるのか不思議に思われる方もいると思います。単純に言うとすれば、「前立腺がんの成長が遅い」からです。PSAが上昇してくると我々泌尿器科医は全摘の病理結果を見直します。前回、再発のリスクを説明しましたが、そのリスクがあまりない場合、例えば、がんが前立腺の膜を超えて外に広がっていない、グリソンスコアも悪くないなどであれば、急に進行する可能性が低いため、ご相談の上、経過観察することがあります。経過観察は定期的に血液のPSA検査をします。PSAが0.2〜0.3などの低値ではCTやMRIでは異常が見つからないことがほとんどですが、さらに上昇していくようであれば検査もします。特にかなり高齢者ではPSAが微量に増えたからといって慌てて治療しなくても良い場合も多いです。治療は比較的副作用の少ない治療と言ってもゼロではありませんから利点と欠点をよく考えて決定しなければなりません。一方で、同様に病理の結果はそれほど悪くなくても患者さんが60歳以下、50歳以下などの若い場合は判断が難しくなりますが、結局は治療に移行することが多いです。治療ですが、現時点では1)ホルモン治療か2)放射線治療、あるいは両方を同時にすることも多いです。ホルモン治療は小さい注射や飲み薬で男性ホルモンを抑える治療で、劇的に効果が出ることが多いのですが、残念ながら、がんを根治するのではなく抑える治療で、始まったらかなり長期に継続する必要があります。また、多汗、ほてり、乳房の腫れ・痛み、糖尿病の悪化などの副作用も出てくることもあります。一方で、放射線は手術後に唯一、根治できる可能性のある治療です。放射線を前立腺を摘除した周囲に当てます。問題点としては約6週間(最近は短期間の方法も出てきました)、毎日、月曜から金曜まで病院に通院しなければならないこと、比較的軽度は副作用ですが、下痢、痔が痛くなりような症状、一時的な頻尿などがあります。また稀ではありますが放射線性膀胱炎となり血尿・頻尿・排尿困難などを起こすこともあります。以前は、ホルモン治療、放射線治療は、それぞれでしたが、2つ合わせて実施する方が結果が良いという報告から最近まで、1年間のホルモン治療中に合わせて放射線治療もするのが標準とされてきました。しかし、最近の大がかりな臨床研究では放射線にホルモン治療を加えることの意味はあまりないのではないか?とも言われ始めています。やや混沌としていますが、全摘標本の病理の結果、PSAの上がり方、年齢、など加味して選択していかなければならないと考えます。