「医療崩壊」を避ける①

Dr. Ohori

「医療崩壊」を避ける①

 多くの国民も皆さんは ニュースやSNSなどで「医療崩壊」という言葉が出ても実感としては それほど切迫した状態と感じていないと思います。しかし実際は悲惨な状況と言って良いと思います。全ての分野でそうなのかもしれませんが、昭和の時代の蓄えで何とか凌いでいると言って良いと思いますが、それも限界に来ています。しかし、何事もそうだと思いますが一旦破綻したら そこから蘇るのは容易なことではありません。医療は命や生活の質に直結しますので破綻させるわけにはいきません。 小さな専門病院の院長として 外科医として現場で働く医師として それなりの解決策はあるものと思いますが、ここでは まず、主な実態・要因を整理したいと思います。

1. 赤字経営病院の割合の増加

  *  2024年度診療報酬改定後、「医業利益」の赤字病院割合は約69%、経常利益の赤字病院割合は約61%とされています。

   * 過去より多くの病院で、収益より支出の伸びが大きくなってきている。

2. 収入回復が遅れている

   * 外来・入院収入が、新型コロナ禍前の水準に戻っていない病院が 約4割。

   * コロナ関連の補助金や特別支援を除くと、黒字だった病院も赤字に転じているケースが多い。

3. コストの上昇が重い負荷に

   * 人件費、医療材料費、光熱費、外注や委託費など、あらゆるコストが上昇。

   * 物価高騰が診療報酬改定や公定価格(診療報酬・薬価等)での調整を上回るペー

4. 病院の廃業・休業・倒産の増加

* 医療法人協会などによると、休業・廃業・解散などが過去最多水準に達している。

* 特に中小病院・地方病院での影響が大きく、建て替えなどの設備更新ができない。

* 医師・看護師等の人材確保が困難、病床数維持が難しいケースが増えている。

主な要因

1. 診療報酬・制度的制約

* 診療報酬は公定価格であり、病院側が自由に価格設定できないため、コスト上昇をそのまま価格に転嫁できない。

   * 診療報酬改定後もコスト(医業費用)の上昇率が収益の伸びを上回っている状況。

2. 人件費・物価の急上昇

   * 看護師・医師をはじめとする医療従事者の人材確保が難しくなり、賃金や待遇改善が必要 →コスト上昇。

   * 医薬品・診療材料・食材・光熱費・委託費等が物価上昇の影響を受けている。

3. 需要・収入構造の変化

* コロナ禍での外来・入院の抑制、患者の受診控えなどの影響がまだ残っている。

   * 地域・規模によっては患者数・病床利用率が低く、固定費を回収できないケース。

4. 高齢化・人口減少・地域偏在

   * 高齢者数の増加で医療需要は上がっているが、それに応じた収入改善・制度改革が追いつかない。

   * 地方での医師・看護師不足、患者の取り込み力の低下等も病院経営を圧迫。

結局のところ、入ってくるお金より出ていくお金が多い環境になってしまっている、と言うことです。日本の大企業は多くの内部留保金があり賃金上昇も可能ですが 大多数の中小企業は価格転嫁できず苦しいままだと思いますが、病院・クリニックも全く同様な状態です。特に収入に関しては自分たちでは一切決められず 国の決めた保険点数(全ての医療手技・材料などに付けられた点数)がほぼ全てですので如何ともし難い状況です。また、比較的病状が落ち着いている患者さんが入院する療養型と違い当院の様な手術をする急性期病院は膨大な量の高価な医療材料を使うので(多くが輸入品)その価格の上昇・税金で経営が圧迫されます。私が常々感じるのは、日本は現場の力は世界一だと、逆境の中でも何とか工夫して実践する力がある。一方で、それが故に全体のシステムを良くする、大改革への要求度は小さく(ストライキなど絶対しない)、仕方がないで終わってしまうのではないか、と。でも、今回の医療崩壊の一歩手前までくるとそうも言っていられません。次は さらに掘り下げて行きたいと思います。

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