米国の医療:センター化

Dr. Ohori

米国の医療:センター化

 計9年も米国にいましたので米国の医療を肌で感じたと言っても良いかと思います。米国の医療制度にも大きな問題があります。日本の様にいつでも、どこでも、行きたいところに、比較的安く、質も高い医療を受けられる世界とはかなり違います。米国は多くの点で真逆であり理想郷ではありません。それでも日本を含め世界中から多くの医師が勉強するために留学し、あるいは米国で医療人となろうとする人も多くいます。一番の長所は教育かも知れません。米国では多くの都市で大学病院レベルの大きさの病院がいくつも集まるメデイカルセンターがあります。日本にもメデイカルセンターと称するところはありますが規模は全く違います。私が1990年から4年間いたヒューストン市のベイラー医科大学はヒューストン市の中央に位置するテキサスメデイカルセンターにありましたが、道路を挟んですぐ横に現在最も有名で大きいMD Anderson cancer centerがあります。米国では日本と違い、都市計画や土地利用の自由度が高く、大学や大病院が「医療地区(medical district)」を形成して再開発・投資を呼び込む拠点となることが多いです。その代表例がこのテキサスメデイカルセンターで、医療都市として計画的に造成され、現在では50以上の病院・研究機関・大学が集積しており、年間経済効果は数百億ドルにのぼると言われています。当然、これだけ規模が大きくなると都市の成長の源となり、行政や不動産開発業者も支援します。広い米国の中でもテキサスは広い州ですから、場所によっては車で1日がかりになってしまいますが、病院の連携もある一方で競争心も半端ありませんから、結果的に質の高い医療を実践しており、世界をリードしている面が多く、どんな遠くても患者さんは集まってきます。教育面でもかなり充実しています。日本では残念ながらこのメデイカルセンター化はできません。その理由は現実的に土地がない、のもそうですが、さらに国民性も関係していると感じます。東京は比較的近くに大学病院が隣接するところもありますが、基本的に大学は「城」であり、城と城の密接な交流はありません。戦国時代と同じです。学会では殿様から命令された侍が集まりますが、本当のアカデミックな心からの交流は難しく、そつのない程度の交流で終わります(一旦、酒が入ると垣根がなくなることもありますが)。極端な例ですが、根っこはそんなところにあると思います。次回は外科医として、この背景にあるものをお話しします。

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