東京八重洲クリニックで外来を終えた後、たまに近くの丸善書店に行って医学書をゆっくり見ます。この間、医学書の新刊紹介コーナーに目についた本を買ってきました。早川書房の「がん免疫療法の突破口(ブレークスルー)」というタイトルのノンフィクションです。とても感動しました。専門用語も沢山出てきますが、物語風でとても読みやすく一気に読んでしまいました。がんの治療に携わってる人にはお勧めです。また医療関係者ではなくても面白く読めると思います。本にも書かれていますが、免疫治療はもともと持っている免疫の力を使うという点でとても魅力的なのですが、長い間、「効かない治療」の代表として扱われてきました。一方で、理由はわかりませんが、稀に効果がありがんが消えることも知られていました。そのことを基礎研究者、臨床研究者、莫大な研究費をかけてきた企業が長年追求してきた結果がブレークスルーに繋がります。そして京都大学の本庶先生のノーベル賞に繋がります。その発見は免疫治療のアクセルを探すだけでなく、ブレーキを探し、それを外すことでした。既に多くの治療薬が開発されていますが、我々も臨床で使うようになってきました。それは深刻なほど高額であり、使用した人に100%効果があるわけではありません。しかし今までの治療では一切効果がなかった人でも劇的に効果を示すことがあります。今後、さらなる突破口の積み重ねで、手術、放射線治療、化学療法を凌ぐ存在になるでしょう。現在、新型コロナウイルスの真っ最中ですが、これを解決する多くが免疫です。本書にも書かれていますが、多くの発見をしてきた研究者はリスペクトされて当然ですが、身を持って貢献した(そして多くが効果なく命を落とした)患者さん達こそリスペクトされるべきだと。