「半沢直樹」の根っこ

Dr. Ohori

「半沢直樹」の根っこ

半沢直樹見ました。面白かったです。顔芸が凄すぎて笑えますが、歌舞伎ってもしかしたらこんな感じかーと変なところから興味も出てきました。痛快ですが金融の専門家が見れば、そんなことあり得ない、違法なんじゃないかー、などと感じるでしょう。しかし、多分、逆にそうだよなー、まあそんな感じもあるなー、こう言うセコいやついるようなー、と言う感想もきっとあるのではないかと思います。医療系のドラマと見ていると、あり得ないーと感じることも多々ありますが、一方でそうなんだよなー、偉そうに手術うまそうにしている人に限って下手なんだよなーー、などと思ったりもします。こう言うドラマの根っこにあるのは当たり前の正義感なんだと思います。恥ずかしくなるくらい真っ当な正義感。しかし、これを押し通すのがいかに難しいか、ドラマほど劇的ではなくても長い人生の中で感じる人は大勢いるはずですし、逆に正義を踏みにじる側に自分を置いた人もいるはずです。私の医者人生はちょっと変わっていて、日本、米国を行ったり来たりで、とても良い経験をさせてもらいました。米国では前立腺がんの世界の名医達に長く触れることができましたので、彼らの真実を追う真摯な姿がとても印象的でした。もともと米国社会は議論に慣れていますので学会で激しい議論でも、個人的な揶揄と言う感じではなく多くの場合、建設的な議論でした。一方で日本は激しい議論というのはほとんどなく「教えていただいてありがとうございます」的な柔和で曖昧な話ばかりでした(最近はだいぶ良くなったのかなとも思いますが)。アメリカで予想以上の長きに渡りそういう環境で仕事をしていましたので、たまに日本に帰って学会に出ると、目の前で私には間違っているのと映る議論がされていると、これを黙って聞いているのは卑怯・責任を果たしていないという一種の正義感から「今のは間違っているいると思います」と、日本では珍しい発言をしまくっていました。当時の私を知る人はなんて怖い人だー、アメリカかぶれの嫌な医者だーと思っている人も大勢いると思います(実際の私がゆるキャラなのを知って驚く人がいますが)。ある時、米国で有名な教授が日本に来て前立腺がんに関する講演をしました。製薬会社から招待されたためか、米国では良しとされていない治療(製薬会社に関連した)をあたかも良い治療のような話をしました。私が感じたのは製薬会社に気を使っている、日本医師に言ってもきっとわからないだろう、と思っている、でした。そこで我慢ならず、下手な英語で「何を根拠にその治療が良いと言えるのですか?良いとする証拠を見たことがありませんが?」と聞いたら口籠って「必ずしも悪いとは言えない」と返してきました。そこで私は「わかりました、それでは先生は米国で先生の患者さんに使用しているのですか?」と聞いたら、さすがに嘘は言えないと思ったのか「ノー」と、会場はシーン。会場が大きくて彼の表情はわかりませんでしたがきっと香川照之なみの顔をしていたのではないでしょうか!! 私自身、私が常に正しいなどと思っていませんが、目の前で間違っているのではないか?と感じることがあれば声はあげなくてはと思います。何しろ人の命や生活がかかっていますから。このことは米国でお世話させてもらった多くの日本人留学生にズーーっと言い続けました。患者さんに大事な薬を出すのと同様に、信じることを発言することが大事だと。もちろん発言後に倍返しをくらうこともありますが。安倍首相が辞めて、後継者争いが始まっていますが、どんな難しい、醜い政治的争いがあるにしても、そういう「根っこ」を持った人がなって欲しいとつくづく感じます。

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