100歳時代の排尿障害対策①

Dr. Ohori

100歳時代の排尿障害対策①

年齢が進むにつれ、ほとんど病気も増えて行きます。平成10年の国民生活基礎調査によると要介護者や寝たきりの頻度は年齢が進むと増えて、寝たきり(全く寝たきり、ほとんど寝たきり)は75−79歳で人口千人あたり46人、80−84歳で61人、85歳以上で144人になるとのことです。寝たきりの方の排尿は通常、オムツ排尿あるいは尿道カテーテルの挿入になります。種々の施設に入院中であればスタッフがオムツ交換あるいは医師・看護師による尿道カテーテル交換(4週間ごと)になります。また、寝たきりになった時点で長期を見越して尿道カテーテルの交換のトラブルを防ぐためにも膀胱ろう(お臍の下、恥骨の上あたりの皮膚から直接、膀胱にクダを入れる方法、これも4週間ごと)を作る場合もあります。結果として寝たきりの方は100%、何かしら排尿トラブルはあります。さらに、寝たきりにならなくても年齢とともに排尿障害(出にくい、出ない、頻尿、失禁など)が増えますので、かなり多くの方が問題を抱えていることになります。また年齢が進めば進むほど、ご本人だけの問題ではなく面倒をみる家族の問題にもなります。

排尿障害と言っても様々で、男女差もありますので、排尿障害対策の1回目として、寝たきりの方のお話をしたいと思います。一番多い相談は尿道カテーテルを1ヶ月ごとに交換が辛い、痛い、血が出るということです。尿道カテーテルは入ってしまうと慣れてあまり感じないものですが、交換の時に軽い痛みや違和感があり、カテーテルが入りにくいと少量の出血もあることがあります。また相談のほとんどは男性です。男性は女性と異なり、尿道が長く、途中に前立腺がありますからカテーテルトラブルも多くなります。解決策1)クダの太さ、種類を変えて見る。ちょっと現実的な話ですが多くの施設で、施設にとって助かる安価なカテーテルを使用していることがありますが、質が悪く硬いカテーテルなこともあります。これは施設のスタッフ、訪問医師・看護師の判断になりますが、検討してみても良いと思います。2)前述した膀胱ろうを作る。これは既に入っている尿道カテーテルから生理食塩水を入れて十分に膀胱を膨らませた後、恥骨の上方から超音波で場所を確認して、皮膚に麻酔をしてメスで小さく切開し、特殊な膀胱ろうのキットを使い針を膀胱へ刺し、その後やや太いクダに交換します。外来でも実施可能ですが、麻酔をして1、2泊入院でやっている施設も多い様です。利点としては、4週間ごとのクダの交換の時の違和感が減る、尿路感染症の頻度が減るなどがあります。欠点としては極めて稀の稀ですが膀胱を十分に膨らませず準備が悪い状況で針を刺すと暴行にかぶさってある腸を刺すことがあります。稀の稀ですがゼロではありません。また、多くの方が血液をサラサラにする抗凝固剤というお薬を飲んでいますので、その調節などと、麻酔をかける場合は、他の検査(血液、心電図など)をする必要があり準備が必要です。また、最初に細いクダを使いますが1ヶ月くらいしたらさらに太いクダに変える必要があります。最もこまった欠点は膀胱ろうが入っていると入居・入院できない施設があるということです。施設のスタッフに泌尿器科医はほとんどいませんので近隣の泌尿器科医に相談しながら対応している施設が多いですが、膀胱ろうは?ということになる様です。また訪問医師・看護師も膀胱ろうについての知識・経験がないこともあります。3)最後に最近よく用いられている尿道ステントがあります。ステントという言葉がよく出てくるのは、狭心症で心臓の血管を広げるための網目状の金属のステントだと思います。血管に限らず体の中の一部分を広げるためのものを意味します。尿道ステントも同様で金属でできたリング状で筒状のものを尿道に入れます。このコイルは直径7−8mmの形状記憶のチタン合金でできています。温度が50度以上(70度くらいを使用します)で広がります、10度以下で柔やかくなります。ですから尿道の狭い部分に入れ位置がよければ70度くらいのお湯を入れて広げます。外来で局所麻酔でやる場合は、患者さんが短時間ですがこのお湯の熱さで痛みを感じます。もともと尿道ステントは前立腺肥大症や尿道狭窄で排尿症状がある方、しかし心臓が悪い、呼吸機能が悪いなどで手術ができない方などに用いてきました。そういう方達にも有効な手段ですが、寝たきりの方に対しても有効だと思います。ただ、目的がやや違います。寝たきりでなく自分でトイレで排尿できる方は基本的にさらに自排尿がうまくいく様にするのが目的ですが、完全に寝たきりの方の場合は尿道ステントの位置を尿道括約筋(排尿の開け閉めをする筋肉)にかけてしまい、全失禁にしオムツ排尿にすることがあります。このことでカテーテルトラブルがなくなり、交換の際の違和感・疼痛もなくなります。また寝たきりでなくても認知症の方はカテーテルを自分で抜いたりしますので、その心配もなくなります。1日2回ほどのオムツ交換は必要ですがこれも検討すべき方法と思います。

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