再発率の高い表在性膀胱がん
筋肉まで浸潤をみとめない表在性膀胱がんの多くは、経尿道的膀胱腫瘍切除術(TURBT)で切除することが可能です。しかしながら、表在性膀胱がんは再発が極めて多い病気です。経尿道的切除術で腫瘍を切除した場合でも、50~60%の患者さんは5年以内に再発すると言われています。もちろん膀胱の別の場所に新たにがんができてしまうこともありますが、再発の原因の多くは初回手術時の削り残し、見逃しであることが示唆されています(Herr. TSW Urology 2011)。
再発率の高い理由、
『見えない』がん細胞
膀胱の上皮内がんや粘膜下層まで浸潤する(T1)高悪性度のがんに対しては、TURBT後にBCGなどの薬物膀胱内注入療法を行うことが推奨されています。しかしながら手術で腫瘍を削り残してしまった場合、BCGの治療効果が低くなることがわかっています(Sfakianos et al. J Urol 2013)。したがってBCGが効かない場合、あるいはBCGを行ったにも関わらずすぐ再発してしまう場合には、がんがどこかに残っている可能性が考えられます。
通常TURBTは、白色光のライトを用いて膀胱内を照らしながら腫瘍を切除します。手術では目で見える腫瘍を完全に切除するよう努めますが、実際には目で見えないがんが膀胱内に広がっていることが多々あります。この“見えないがん細胞”が、再発や、BCGが効かない原因と考えられます。
『見えないがん』が『見える』光線力学診断
この“見えないがん細胞”を見えるようにするための新技術が「5-アミノレブリン酸 (5-ALA)を用いた光線力学診断(PDD) (ALA-PDD)」です。手術前に5-アミノレブリン酸と呼ばれる薬剤を服用し、手術時に青色の光を発する膀胱鏡を用いることで、がんを赤色に蛍光発光させ可視化することが可能になります。実際にこの技術を用いたTURBTを行い、白色光でのTURBTと治療成績を比較した無作為研究では、4年後、8年後の再発率は、白色光でのTURBTでは31%、48%であったのに対し、光線力学診断を用いたTURBTでは9%、20%と大きく低下することが証明されています。光線力学診断を用いたTURBTを行うことで、再発までの期間も有意に長くなることがわかりました(Denzinger et al. BJU Int. 2008)。
東京国際大堀病院では表在性膀胱がんに対し5-アミノレブリン酸を用いた光線力学診断を行っています。がんの削り残しを最大限減らし再発を抑えるためには、この方法が最善の方法であると考えています。
当院で行った光線力学診断補助下TURBTの手術動画
(患者さんの許可を得て掲載しています)
①白色光で膀胱内を観察した場合、膀胱全体が赤く見えますが、どこにがんが潜んでいるか不明瞭です。青色光で発光させることで、がんの存在部位を同定し、同部位を的確に組織採取しています。結果、膀胱上皮内がんと診断されています。
②白色光で見える腫瘍を完全切除したつもりですが、青色光を当てると、切除部辺縁に赤く光る場所が見えます。これがいわゆる“削り残し”です。通常の白色光では診断することができません。青色光を適宜当てながら、周囲に広がるがんを残さず切除しています。
治療方法や副作用について
当院における本治療の方法
手術前に薬剤(アラグリオ®)を内服していただきます。
- 患者さんにはTURBTを行う約2時間前に、病室で「5-アミノレブリン酸(商品名: アラグリオ®)」と呼ばれる薬剤を内服していただきます。アラグリオ®内服後、2~5時間の間はがん細胞は青色光で赤色に発光します。
内服後48時間は強い光を避けていただきます。
- アラグリオ®内服後は、48時間の間強い光を浴びることができません(光線過敏症:日光のあたる部分に発疹やみずぶくれができる、を起こす恐れがあります)。したがって、部屋の照明や遮光、手術室内の照明などの調節を病院スタッフが行わせていただきます。アラグリオ®内服後48時間が経過すれば、通常通り光を浴びても大丈夫です。
アラグリオ®の副作用について
アラグリオ®内服により下記の副作用が出現することがあります。
- 光線過敏症:日光のあたる部分に発疹やみずぶくれができる
- 悪心、嘔吐
- 頭痛
- 血圧低下
- 血中肝酵素異常(GOT、GPTの上昇)
最後に
近年アラグリオ®を内服しTURBTを行った患者さんに、血圧低下の副作用が生じる可能性が報告され(Nohara et al. Int J Urol. 2019)、当院で本手術を行った患者さんの約14%にも、手術中に低血圧が生じました。そのため、東京国際大堀病院では安全性に十分配慮し、麻酔科医師の完全管理下のもと本手術を行っています。
当院で行った本手術の治療成績を検討した結果、光線力学的診断を用いたTURBTは、特に膀胱上皮内がんの診断能力が極めて高いことがわかりました。上皮内がんの有無は、その後の治療方針を大きく変える因子であり、初回手術時に的確に診断することで、その後の治療成績が大きく変わる可能性があります。通常の白色光でのTURBTでは上皮内がんを可視することは困難です。患者さんに最善の治療を提供し最大限再発を減らすために、当院では本手術を積極的に行っています。