腎がん(腎細胞がん)とは?
尿細管の細胞が
がん化して発生した悪性腫瘍

腎がん(腎細胞がん)とは、尿細管の細胞ががん化して発生したものを指します。腎がんと直接結びつく原因はよく分かっておりませんが、腎がんを発症させる危険因子としては、肥満や喫煙、高血圧などとの関連が指摘されています。
また、長期間透析を受けている患者さんも、腎がんになる可能性がとても高くなることが報告されています。
その他、発生しやすい家系があることも知られており、VHL遺伝子(フォン・ヒッペル・リンドウ病がん抑制遺伝子)に変異がある家系の方は、一般の方より高い確率で腎がんを発症することが判明しております。
日本では腎がんに診断されている人(罹患数)は、腎盂がんを含めると約15,000人と推定されており、男女比は約2:1で男性に多く、高齢になるほど発生頻度も高くなります。
もともと腎がんは、欧米に比べて少ないとされていましたが、1980年代以降、増加の一途をたどっています。
背景には、食生活の欧米化や人口の高齢化、さらに検査機器の発達によって偶然発見される腎がんが増えたことが関係しているようです。
腎がんの症状について
初期のうちは症状が少なく、
症状が出るまで発見されにくい腎がん
腎がんは初期のうちは
症状がほとんどありません。
-
血尿
-
腹部のしこり
-
わき腹の痛み
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発熱
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疲れやすい・貧血
-
食欲減退
腎がんはゆっくり発育するがんのため、腫瘍が小さなうちはほとんど症状はありません。
腫瘍が大きくなると、『血尿』『腹部のしこり』『わき腹の痛み』といった症状があらわれることがあり、ほかにも原因不明の発熱、食欲減退、急激な体重減少、貧血などの全身的な症状がみられることがあります。
しかし、よほど進行していなければ、これらがすべて揃うことはほとんどありません。
最近は画像検査が進歩し、人間ドックや定期健診などで無症状のうちに偶然発見されるケースが大変多くなりましたが、偶然発見される腫瘍は小さく、悪性度も低い傾向があります。
腎がんの検査と診断方法
定期的な健診を行うことで、
早期発見が可能です
腎がんの主な検査
主な検査法はCTやMRI検査などの画像検査です。はじめに超音波でスクリーニング検査を行い、CTやMRI検査で診断を確定するのが一般的です。特にCT検査は、がんの大きさや広がり具合を調べるのに有用で、腎がんの「病期」を判定するうえでも欠かせない検査となります 。
- 超音波検査
- 超音波検査は手軽で体の負担も少ないため、健康診断や人間ドックなどで広く用いられています。スクリーニングとして広く浅く調べるうえで大変有益ですが、確定診断のためにはさらに精密な検査を必要とします。
- CT検査
- 確定診断を行うのに重要な検査です。造影剤の注射を同時に行うことで、腎臓や腫瘍にある血管の状態も分かり、手術にも役立ちます。診断精度に優れた検査ですが、造影剤にアレルギーのある人や腎機能障害のある人には問題があり、X線による被曝も多少あります。
- MRI検査
- CT画像では確定できない場合や、がんが静脈や肝臓などに広がっていることが疑われる場合などに有効な検査です。X線の被曝がなく、造影剤のアレルギーのある人に対しても有効ですが、磁力を用いて検査するため、ペースメーカーなど体内に金属が入っている人は行えません。このような方は、必ず主治医に事前に知らせてください。
- 血液・尿検査
- 腎がんに特異的な腫瘍マーカーはなく、確定診断には直接関係しませんが、腎機能が低下している場合は部分切除が検討されるなど、手術法の選択に役立ちます。また炎症反応に関わる数値が高い場合は、がんの発育速度が早いことを知らせるサインとなります。
※診断が難航する場合は、針生検を行うこともあります。
腎がんの治療方法について
手術による根治から薬物治療まで
病期(ステージ)に応じた治療方針
腎がんにおいて手術治療は最も有効な治療法であり、転移が無い場合には手術による根治を目指します。転移がある場合には薬物治療を行いますが、状況に応じ手術治療も検討されます。放射線治療や化学療法(抗がん剤)は、効果が低いと報告されています。
腎がんの病期(ステージ)と
治療方針について
腎がん(腎細胞がん)の治療方針は、病期(ステージ)を参考に検討されます。
病期(ステージ)は腎がんの進行の程度を表しており、下記に示す分類を用いて、ステージⅠ~Ⅳで表記します。
T,N,Mはそれぞれ、T=「腎がんの大きさ」、N=「リンパ節への転移」、M=「遠隔転移」を意味します。
TNM分類
- T1a
- 腎細胞がんの直径が4cm以下で腎臓にとどまっている
- T1b
- 腎細胞がんの直径が4cmを超えるが7cm以下で腎臓にとどまっている
- T2a
- 腎細胞がんの直径が7cmを超えるが10cm以下で腎臓にとどまっている
- T2b
- 腎細胞がんの直径が10cmを超えるが腎臓にとどまっている
- T3a
- 腎細胞がんが腎静脈または周囲の脂肪組織まで及んでいるが、ゲロタ筋膜※を越えない
- T3b
- 腎細胞がんが横隔膜より下の大動脈内に広がっている
- T3c
- 腎細胞がんが横隔膜の上の大静脈に広がる、または大静脈壁まで及んでいる
- T4
- 腎細胞がんがゲロタ筋膜を越えて広がる(同じ側の副腎まで及んでいる場合を含む)
- N0
- 所属リンパ節への転移なし
- N1
- 所属リンパ節に1個転移あり
- N2
- 所属リンパ節に2個以上転移あり
- M0
- 別の臓器に転移なし
- M1
- 別の臓器に転移あり
※ゲロタ筋膜:腎臓をおおっている一番外側の膜
出典:「泌尿器科・病理・放射線科 腎癌取扱い規約 第4版(2011年)」(金原出版)
このTNM分類を組み合わせることで
病期を判断します、ステージは
次のⅠ~Ⅳに分類されます。
ステージ分類(Ⅰ~Ⅳ)


出典:「泌尿器科・病理・放射線科 腎癌取扱い規約 第4版(2011年)」(金原出版)
このステージに基づいて、
患者さんの年齢や
身体の状態などを含めて検討し、
治療方針を決めていきます。
次の表にステージに基づく
標準治療を示します。
ステージによる治療方針


出典:メジカルビュー社『腎癌のすべて 基礎から実地診療まで』改訂第2版
腎がんの治療は手術治療が中心ですが、年齢や合併症に応じては、より侵襲の少ない局所治療(凍結療法等)を行なうことも徐々に増えてきています。また転移がある場合でも、手術治療と薬物治療を組み合わせることで、近年予後の改善もみられ、仕事や家庭の日常生活と治療の両立をされている方もいらっしゃいます。上記の方針を参考にしながら、自分にあった治療方針を担当医と相談することが重要です。
手術治療
(腎摘除術、腎部分切除術 等)
ロボット支援下腎部分切除術(RAPN)
ロボット支援下腎部分切除術(RAPN)は、手術支援ロボットの「ダビンチ」を用いることで、三次元の立体的な画像を4K高精細度モニターに投影し、腫瘍と臓器の正確な位置関係をとらえながら、より繊細な手術を行うことができます。従来の腹腔鏡手術と異なり、人間の手の関節以上に自由度の高いロボット鉗子を用いることで、腫瘍の精密な切開や、残った腎臓の縫合を正確により早く行うことが可能です。また、腹腔鏡手術と同様に傷口が小さいため、術後の痛みが少なく、患者さんの社会復帰も早めることが可能になりました。すなわち、ダビンチを用いたロボット支援下腎部分切除術(RAPN)は、開腹手術と腹腔鏡手術の利点を合わせ持った術式と言えます。東京国際大堀病院ではロボット支援下腎部分切除術(RAPN)を導入しました。より患者さんの身体への負担が少なく、安全で正確な腎臓がんに対する治療を目指しています。
ロボット支援腎部分切除術で
使用するポート位置(傷の位置)

(腹腔内アプローチ)

(腹腔内アプローチ)

(後腹膜アプローチ)

(後腹膜アプローチ)



腹腔鏡下手術
当院では積極的に腹腔鏡下手術を導入しています。腹腔鏡下手術とは、5~10mm程度の穴を数か所お腹に開け、お腹の中を炭酸ガスで膨らませ、その穴から手術用のカメラや器具を挿入して行う手術の事です。開腹手術と比較して、出血が少なく、カメラによる拡大視野で手術を行うため精密な手術が行え、出血を最小限に抑えることができます。また傷が小さく美容的に優れ、手術後の痛みが少ないことも特徴です。手術後の回復も早く入院期間も短縮でき、早期の社会復帰が期待できます。当院では4K高精細度モニターを導入し、より丁寧に安全な腹腔鏡手術が行えるようになっています。
また、腫瘍の大きさが4㎝以下の腎がんに対しては、「ロボット支援下腎部分切除術」を行っています。腹腔鏡手術では比較的難易度の高かった腫瘍切除および腎臓の縫合が、ダビンチを用いることでより精密にできるようになりました。



腹腔鏡手術に使用する
カメラシステム


薬物治療(分子標的薬、
免疫チェックポイント阻害薬 等)
分子標的薬
分子標的薬は日本では2008年から使用可能となりました。腎がんの分子標的薬には、チロシンキナーゼ阻害薬とmTOR阻害薬の2つのタイプがあります。両者を合わせ、現在国内においては6種類の薬が使用可能です。これらの薬は、腫瘍を小さくしたり、増大を遅らせたりする効果があります。従来の抗がん剤(化学療法)と異なり、がんの増殖を引き起こす細胞の内の特定の分子を狙い撃ち(分子標的)することから分子標的薬と呼ばれます。
チロシンキナーゼ阻害薬
がん細胞は自らが増殖するために必要な栄養や酸素を得るため、細かな血管を増生するシグナルを発生します。チロシンキナーゼは、このシグナルの伝達において、重要な役割を果たす分子の一つです。チロシンキナーゼ阻害薬は、このシグナル伝達を阻害し、腎がんの増殖を阻止する効果があります。
特徴的な副作用としては、高血圧・疲労・甲状腺機能低下症・下痢・手足症候群(手掌や足底の皮膚に生じる痛みを伴う皮膚炎)等の可能性があります。また間質性肺炎等の重大な副作用も報告されており、場合によってはステロイド治療となる事もあります。
mTOR阻害薬(テムシロリムス、エベロリムスの2種類)
mTORという酵素が活性化することによって、がん細胞の増殖が亢進し、がんの増大や転移が促進されていることが明らかになっています。主にその酵素の働きを抑える事で癌の増殖を抑制しようとするのが、mTOR阻害薬です。
副作用には、口内炎、発疹、高脂血症や高血糖などがあり、チロシンキナーゼ阻害薬と同様に間質性肺炎が起こる可能性もあります。
免疫チェックポイント阻害薬
従来の抗がん剤とは異なり、がんを攻撃するT細胞を活性化させ、活性化したT細胞によってがん細胞を排除するという作用をもつ薬剤です。進行したがんでも治療が奏功する場合があり、治療効果が長く続く場合もあることが特徴です。
免疫応答を活性化させることにより、正常な細胞も攻撃される可能性があります。副作用の発現率が他の治療に比べて高いわけではないですが、その種類は全身多岐にわたります。甲状腺機能低下症や間質性肺炎、のほか、劇症1型糖尿病や重症筋無力症、大腸炎などが特徴的な副作用です。
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