前立腺がんとは?
早期に発見できれば
根治が可能な男性特有のがん

前立腺がんは、前立腺肥大症とともに中高年の男性に多い病気のひとつで、前立腺の細胞が正常な細胞増殖機能を失い、無秩序に自己増殖することにより発生するがんです。前立腺がんの発生には加齢による男性ホルモンのバランスの変化が影響しているものと言われています。
前立腺がんは主に外腺(辺縁領域)に発生します。ほかの臓器のがんとは異なり、ゆっくりと進行するため、早期に発見できれば、ほかのがんに比べて治りやすいがんであるといえます。
しかし、初期には自覚症状がほとんどないため、発見が遅れた場合、最終的には骨やほかの臓器にまで転移することがあるため、早期に発見し、適切な治療を行うことが大切になります。
前立腺がんの症状について
進行がゆっくりな為、
症状がある場合はすぐ専門医に相談
早期はがん特有の自覚症状がなく
進行するほど徐々に症状が
現れてきます。
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尿や精液に血が混じる
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排尿時の痛み
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尿が出にくい
早期の前立腺がんには、多くの場合自覚症状がありませんが、尿が出にくい、排尿の回数が多いなどの症状が出ることもあります。
がんが進行すると、尿がでにくい、排尿時に痛みを伴う、尿や精液に血が混じるなどの症状がみられることがあります。
さらに進行すると、がんが臀部や腰の骨を中心としてほかの部位にまで転移します。
骨に転移した場合には、血尿、腰痛、骨痛があらわれることがあります。
前立腺がんの検査方法について
PSA検査から陽性的中率の高い
MRI超音波弾性融合画像前立腺生検まで
前立腺がんの主な検査
PSA検査
前立腺特異抗原(PSA)は健康診断などで測定される前立腺がんの腫瘍マーカーです。一般的にPSAが4.0 ng/ml以上の場合前立腺がんの可能性があり(年齢によって、3.5や3.0を基準とすることがあります)、泌尿器科専門医の受診が勧められます。しかしながらPSAが異常だからといって必ずしも“がん”というわけではありません。PSAは前立腺肥大症や前立腺の炎症などの良性疾患でも高くなることがあり、われわれ泌尿器科の医師はPSAが高い原因や前立腺がんの有無を的確に診断しなければなりません。最終的に前立腺がんの有無を確定するためには「前立腺生検」と呼ばれる組織検査が必要になります。
一昔前まではPSAが4.0ng/ml以上の場合、多くの患者さんに前立腺生検が行われてきました。しかし、PSAが4.0 ng/ml以上の患者さんに前立腺がんが見つかる可能性は20%~40%程度であり、逆に考えれば60%~80%の患者さんにはがんが見つかりません。したがって、PSAが高い患者さんすべてに前立腺生検を行うことは、過剰な検査の可能性が指摘されてきました。そのため、「PSAが高い患者さんの中で、本当にがんの可能性が高い人を見つけよう」、「がんの可能性が高い人だけに前立腺生検を行おう」という考え方が広まってきました。
PSAが炎症で上がっていた場合、再検査で正常値になる可能性があります。
直腸診

お尻の穴から指を入れ、直腸越しに前立腺の触診を行います。通常前立腺は消しゴムのような硬さ(弾性硬)として触れますが、“がん”の多くは石のような塊として触知します(石様硬)。直腸診で初めてがんが疑われることもあります。がんの広がり(前立腺の外まで広がっているか)も分かることがあり、古くから重要な検査と考えられていますが、前立腺の全ての場所を触ることはできないため、他の検査と併せて判断することが必要です。
PSA FT比(Free-Total PSA比、
エフティー比)
PSAは主に前立腺から作られるタンパク質ですが、その中にはFree-PSA(フリーピーエスエー)と呼ばれる成分が含まれています。このFree-PSAがPSA全体を100%とした場合、どれくらいの割合(何%)で含まれているかの比率を算出した数値がPSA FT比です。例えばPSAが6.0 ng/mLで、Free-PSAが1.5 ng/mLだった場合、1.5÷6.0×100=25%という計算になります。一般的に前立腺がん細胞の中にはFree-PSAが少なく、逆に良性の前立腺細胞はFree-PSAを多く含むことが知られています。したがって、PSA FT比が小さい(つまりFree-PSAが少ない)ほど、前立腺がんが存在する可能性が高く、PSA FT比が高い(つまりFree-PSAが多い)ほど、前立腺肥大症などによりPSAが上昇している可能性が高いと判断されます。何%であれば“がん”が存在するという明確な数値はありませんが、PSA FT比が10%未満であれば前立腺がんの可能性が高く、20%以上であれば前立腺肥大などによるPSA上昇の可能性が高いと言われています。10−20%の間の場合、どちらとも言えません。この検査のみで前立腺がんの有無を確定することはできませんが、他の検査と併せて、がんの可能性を判断します。
腹部超音波検査、
経直腸前立腺超音波検査

前立腺の大きさ(体積)を測定し、前立腺肥大があるかを調べます。また、超音波検査で前立腺は淡い白い組織として描出されますが、前立腺がんが存在する場合、“がん”の場所は黒く見えることがあります(hypo echoic lesion)。
MRI検査

現在、前立腺がんの存在を診断するためにもっとも優れた画像検査がMRIです。近年、MRI検査の進歩に伴い、前立腺がんの有無だけでなく、画像所見から、がんの位置、大きさ、悪性度などがある程度の確率で予測することが可能になりました。MRI画像の結果で、がんの可能性を5段階予測する(1点: 癌がんの可能性が極めて低い 2点: がんの可能性が低い 3点: どちらとも言えない 4点: がんの可能性が高い 5点: がんの可能性が極めて高い)PIRADS-score (パイラズ-スコア) がヨーロッパを中心に提唱され日本でも広く用いられるようになり、がんの可能性を客観的に評価できるようになりました。最近はPIRADS-scoreをもとに、前立腺生検をするかしないか決める施設が増えています※
最近の考え方としては、PIRADS-scoreが3点以上の場合、前立腺生検を勧めることが多くなりました。しかしながら、PIRADS-scoreが1-2点であっても、前立腺がんが絶対に無いとは言い切れません。MRI画像だけでなく、PSA値、前立腺の大きさ、年齢、直腸診の所見などから、前立腺生検を行うべきか、慎重に判断することが必要です。
MRI超音波弾性融合画像
前立腺生検(UroNavウロナビ)


当院では国内4施設目となる「UroNav(ウロナビ)」を用いた「MRI-超音波弾性融合画像前立腺生検」システムを導入しております。「UroNav(ウロナビ)」はMRI画像をリアルタイムで超音波画像と融合させ、3Dの立体画像として表示することができる機能を持っており、MRIでがんが疑われる部位を経直腸的超音波画像上に表示し、超音波画像上に生検部位を直接確認しながら(MRI−超音波弾性融合: エラスティックフュージョン) 前立腺生検を行うことを可能にしました。
このことによりがんの陽性的中率が80%以上と大幅に向上することに成功しました。
※陽性的中率とは MRIで陽性(PIRADS score 4点以上)の場合に生検陽性率が80%以上
前立腺がんの診断方法について
前立腺がんの治療方法の考え方は
大きく3つに分類されます


①限局がん:転移のない早期がん
転移のない早期がんでは手術、外照射、小線源、ホルモン治療、無治療経過観察、どの治療も選択できます。しかし、それぞれ利点、欠点がありますから医師と相談し、良く検討してから選んで下さい。
②局所浸潤がん:転移はないが
PSAがかなり高くまた悪性度も悪い局所進行がん転移はないが進行したがんではやや選択肢が狭まり、通常、小線源療法は選択できませんし、無治療経過観察も基本的にはお勧めしません。ホルモン治療2−3年と外放射線療法の組み合わせが標準とされます。また、手術が選択されることもあります。
③浸潤・転移がん:骨転移や
リンパ節転移があるがん転移のある場合は、手術や放射線の様に局所の治療ではなく、基本的にホルモン治療となります。もし、身体のある部分のみに強い痛みがあれば放射線をあてることはありますが通常の前立腺への放射線療法とは異なります。
前立腺がんの治療方法について
病期に合わせた5つの治療方法を
慎重に検討します
ロボット支援前立腺全摘術①限局がん②局所浸潤がん

ロボット支援前立腺全摘術は、一般的にはロボット手術と言われています。
手術支援ロボットda Vinci(ダビンチ)を用いたロボット手術は、腹腔鏡下手術と同様に、患者さんの体に小さな穴を開けて行う傷口が小さく身体への負担の少ない治療方法です。またお腹の中に二酸化炭素を注入し膨らませることで、止血効果をもたらします。
術者は精細な拡大3D画像を見ながら、人間の手よりも自由度が高く(7方向360度)精密な動きが可能となるアームの先端を活かして手術操作を行います。
従来の手術に比べて傷口が小さく、術中の出血量が減少し、術後の痛みも少ないため、患者さんの早期社会復帰が期待できます。また結果として、身体の機能の温存や入院期間の短縮といった患者さんへの負担の軽減が可能になりました。
当院では泌尿器科、婦人科に特化したロボット手術センターを開設。ロボット手術において日本トップクラスの症例数を経験した医師やスタッフが在籍しておりますので、安心して手術に関するご相談をいただけます。
ロボット支援前立腺全摘術の特徴
- 入院期間約10日間。
- 手術前日に入院、手術当日は全身麻酔。
- 手術時間は約2〜3時間。
- 出血は少量(輸血の可能性は1%以下)。
- 手術後の痛みが少ない。
- 尿失禁の改善が早い。
- 性機能の改善が早い(個々のケースで神経の温存の適否を決めます)。
外照射 (IMRT)①限局がん②局所浸潤がん
外照射 (IMRT)は、身体の外から前立腺に放射線を当てる治療法です。
従来までは前立腺に正確に当てることが難しかった為、十分な放射線量を前立腺に当てることができず、また、前立腺のまわりの膀胱や直腸などに当たってしまい副作用が出る可能性がありましたが、今では機器の改善・開発により外照射は標準治療の大切な選択肢の一つとなっています。
最近では、前立腺に正確に放射線を当てることができるIMRT(強度変調外照射)が主流となっており、良好な成績を得ています。
また、全国的には実施施設がまだ少ないですが重粒子、中性子治療を実施している施設もあります。
外照射 (IMRT)の主な治療方法
前立腺の輪郭に沿うため下の写真様な特殊な装具を数個(図1)、放射線の出るところに装着し、10週間、月~金曜日まで毎日、少しずつ放射線を当て計78Gyという量の放射線をあてます。
正確に当てるために位置を決めたりするのに時間がかかり1回あたり約2時間ほど病院にいる必要があります。
副作用は少ないですが治療当初は便秘や下痢、痔の症状、頻尿などがあり、長期にわたり放射線性直腸炎や膀胱炎が起きないかを経過観察を行う必要があります。
転移がない前立腺がんでもPSAがかなり高かったり、針生検の悪性度が悪かったりする時には、約2年間のホルモン治療を実施し、その間にIMRTを実施することがあります。


密封小線源療法①限局がん

密封小線源療法は、ヨード125という放射線物質をチタンの小さいカプセルに入れて前立腺に40-100個挿入する治療です(左図)。
細かい計算のもとに実施するので前立腺の周りの直腸や膀胱への影響が少なく副作用の少ない治療と言えます。
デアミーコのリスク分類の低リスクの方が最も成績が良いですが最近では中~高リスクの方も実施しています。 高リスクの方は他の要素も考慮に入れてこの治療が適しているか判断されます。
密封小線源療法の主な治療の流れ

前立腺が40cc以上の大きさになると小線源が100個以上いることになり、また挿入が難しくなるためホルモン治療を数か月実施して40cc以下にしてから実施します。
経験的には55cc前後の方は可能ですが60cc以上になるとホルモン治療でも40cc以下に縮小してくれるかは予測が難しくなります。
通常、治療前日に入院し、当日に腰椎麻酔(背中から実施する部分麻酔)下に施行します。通常は挿入時間は30分程度ですがその前後に準備などありますので全部で約2時間かかります。手術時から尿道に管(カテーテル)が入り翌日の朝に抜きます。その後、排尿状態を確認し熱、血尿などなければ退院になります。
上図は体の縦断面になります。超音波の細長い器械を肛門から直腸に入れ、超音波上の前立腺の画像を見ながら細い針を肛門の上の皮膚(会陰部)から入れます。
入れた針を通してねらったところに小線源のカプセルを置きます。この繰り返しで放射線の医師が計画してくれた通りに前立腺全体に十分な放射線が当たるようにします。
退院後、1か月後に外来で細い尿道カテーテルを挿入しCT検査を受けます。左図下のように前立腺の中に白い点がいくつも見えます。
これが小線源で、このCTをもとに放射線医師が放射線の分布図を書き、前立腺全体への放射線量を決定します。これがその後のことを占う大事な検査とされます。
その後は定期的に外来でPSA採血検査を継続します。最初は1か月後に外来に来てもらいますが、その後は2か月後、3か月後とだんだん長期間になります。通常、PSAは少しずつ下がり2年後前後で0.1〜0.2ほどで落ちつくことが多いです。
内分泌治療(ホルモン治療)①限局がん②局所浸潤がん③浸潤・転移がん

内分泌治療とは飲みぐすりや注射で男性ホルモンを抑える治療です。前立腺や前立腺がんは男性ホルモンに依存して成長することが特徴で、男性ホルモンを減少させることで劇的に効果を示す治療です。内分泌治療は基本的に全身の治療であり、転移のない早期がんには最初から積極的には用いません。
その理由は乳房痛、ほてり、血栓症(心筋梗塞や脳梗塞)のリスクが上昇、長期投与による骨や筋肉の脆弱化などの副作用があり、さらに内分泌治療を継続する中で効果がなくなりその後の手だてが限られてくるなどの欠点があるからです。
しかし、高齢であったり、他の病気で麻酔がかけられず手術ができない場合などには選択するケースがあります。
内分泌治療の多くはかなり長期間継続するのが原則ですが、場合によっては休みを入れて継続するやりかた(間歇療法)もありますので主治医と十分な相談が必要です。
副作用の心筋梗塞や脳梗塞が比較的多い欧米ではできるだけ内分泌治療を避ける傾向にありますが、日本では古くから内分泌治療を積極的に用いてきた経緯もあり、早期癌でも内分泌治療を好む医師もいます。それが絶対悪いわけではありませんが、手術・放射線治療を勧めず内分泌治療を勧められた場合には、その理由を十分に話し合う必要があります。
また、中には「とりあえず内分泌治療を始めて」その後、他の治療を考えましょうという医師もいまだにいますが、内分泌治療はとりあえず行う治療法ではありません。
さらに世界的に手術前の内分泌治療はあまり意味のない治療であることがはっきりしているのですが日本では未だに内分泌治療と手術をセットで考えている医師がいるのは残念です。
内分泌治療は脳の下垂体に効く薬剤を注射をすることで精巣からのアンドロゲンを抑える方法と内服薬(抗アンドロゲン薬)でアンドロゲンが前立腺の細胞に働きかけるのを防ぐ方法の2つあり、この注射と内服薬を併用する完全アンドロゲン遮断療法(MABやCAB療法と呼ばれる)が多く行われています。
実際に使用する注射(商品名)はリュープリン、ゾラデックス、ゴナックスなどがあります。
経過観察(PSA監視療法)①限局がん

前立腺がんと診断されたのにも拘らず、積極的な治療をせず、時々PSAの測定や針生検をしながら様子をみる『経過観察(PSA監視療法)』という手段もあります。
これは前立腺がんの成長が多くの場合ゆっくりであり、一生の間、命や生活を脅かす可能性が少ない場合があるからです。
典型的なのは高齢者(例えば75歳)で前立腺肥大症の診断を受け、手術で前立腺の内側を削ることがありますが、その削った標本の中にたまたま前立腺がんが見つかった場合は、早期がんの中でも極めて早期がんと判断され、経過観察をすることが標準的な治療とされます。
一般的にこの方法をとる場合はPSA値、悪性度(グリソンスコア)が低く、直腸診でも触れない程の低リスクがんが対象となり、低リスクで高齢者であれば平均的な寿命(余命)を考えるとのバランスを考えてこの方法を選ぶことがあります。
最近は50歳代はもちろん、40歳代後半でもよく前立腺がんがみつかります。
若年者だからこそ、尿失禁や性機能障害が起こりうる治療を避けて経過観察をしようという考えもありますが、一方で若年者こそ余命は数十年あり、その長期の中で「治癒できるタイミング」を失う可能性がありますし、待てば待つほどいろいろな選択肢を失う可能性もあります(手術で神経温存できなくなったり)。
実際のところ約半数の方がこの方法を始めてから5年以内に結局、積極的な治療に移行します。
その理由はPSAの上昇、再度針の検査でその内容が悪化そして本人の不安があります。
これらのことを十分に理解・納得して選択する必要があります。
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