腎がん(腎細胞がん)の治療について
腎がんにおいて手術治療は最も有効な治療法であり、転移が無い場合には手術による根治を目指します。転移がある場合には薬物治療を行いますが、状況に応じ手術治療も検討されます。
放射線治療や化学療法(抗がん剤)は、効果が低いと報告されています。
手術治療(腎摘除術、腎部分切除術 等)
当院では積極的に腹腔鏡下手術を導入しています。腹腔鏡下手術とは、5~10mm程度の穴を数か所お腹に開け、お腹の中を炭酸ガスで膨らませ、その穴から手術用のカメラや器具を挿入して行う手術の事です。開腹手術と比較して、出血が少なく、カメラによる拡大視野で手術を行うため精密な手術が行え、出血を最小限に抑えることができます。また傷が小さく美容的に優れ、手術後の痛みが少ないことも特徴です。手術後の回復も早く入院期間も短縮でき、早期の社会復帰が期待できます。当院では4K高精細度モニターを導入し、より丁寧に安全な腹腔鏡手術が行えるようになっています。
また、腫瘍の大きさが4㎝以下の腎がんに対しては、「ロボット支援下腎部分切除術」を行っています。腹腔鏡手術では比較的難易度の高かった腫瘍切除および腎臓の縫合が、ダビンチを用いることでより精密にできるようになりました。
腹腔鏡手術に使用するカメラシステム
薬物治療(分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬 等)
分子標的薬
分子標的薬は日本では2008年から使用可能となりました。腎がんの分子標的薬には、チロシンキナーゼ阻害薬とmTOR阻害薬の2つのタイプがあります。両者を合わせ、現在国内においては6種類の薬が使用可能です。これらの薬は、腫瘍を小さくしたり、増大を遅らせたりする効果があります。従来の抗がん剤(化学療法)と異なり、がんの増殖を引き起こす細胞の内の特定の分子を狙い撃ち(分子標的)することから分子標的薬と呼ばれます。
チロシンキナーゼ阻害薬
がん細胞は自らが増殖するために必要な栄養や酸素を得るため、細かな血管を増生するシグナルを発生します。チロシンキナーゼは、このシグナルの伝達において、重要な役割を果たす分子の一つです。チロシンキナーゼ阻害薬は、このシグナル伝達を阻害し、腎がんの増殖を阻止する効果があります。
特徴的な副作用としては、高血圧・疲労・甲状腺機能低下症・下痢・手足症候群(手掌や足底の皮膚に生じる痛みを伴う皮膚炎)等の可能性があります。また間質性肺炎等の重大な副作用も報告されており、場合によってはステロイド治療となる事もあります。
mTOR阻害薬(テムシロリムス、エベロリムスの2種類)
mTORという酵素が活性化することによって、がん細胞の増殖が亢進し、がんの増大や転移が促進されていることが明らかになっています。主にその酵素の働きを抑える事で癌の増殖を抑制しようとするのが、mTOR阻害薬です。
副作用には、口内炎、発疹、高脂血症や高血糖などがあり、チロシンキナーゼ阻害薬と同様に間質性肺炎が起こる可能性もあります。
免疫チェックポイント阻害薬
従来の抗がん剤とは異なり、がんを攻撃するT細胞を活性化させ、活性化したT細胞によってがん細胞を排除するという作用をもつ薬剤です。進行したがんでも治療が奏功する場合があり、治療効果が長く続く場合もあることが特徴です。
免疫応答を活性化させることにより、正常な細胞も攻撃される可能性があります。副作用の発現率が他の治療に比べて高いわけではないですが、その種類は全身多岐にわたります。甲状腺機能低下症や間質性肺炎、のほか、劇症1型糖尿病や重症筋無力症、大腸炎などが特徴的な副作用です。
腎がんの病期(ステージ)と治療方針について
腎がん(腎細胞がん)の治療方針は、病期(ステージ)を参考に検討されます。
病期(ステージ)は腎がんの進行の程度を表しており、下記に示す分類を用いて、ステージⅠ~Ⅳで表記します。
T,N,Mはそれぞれ、T=「腎がんの大きさ」、N=「リンパ節への転移」、M=「遠隔転移」を意味します。
TNM分類
このTNM分類を組み合わせ、ステージは次のⅠ~Ⅳに分類されます。
ステージ分類(Ⅰ~Ⅳ)
このステージに基づいて、患者さんの年齢や身体の状態などを含めて検討し、治療方針を決めていきます。
次の表にステージに基づく標準治療を示します。
ステージによる治療方針
腎がんの治療は手術治療が中心ですが、年齢や合併症に応じては、より侵襲の少ない局所治療(凍結療法等)を行なうことも徐々に増えてきています。また転移がある場合でも、手術治療と薬物治療を組み合わせることで、近年予後の改善もみられ、仕事や家庭の日常生活と治療の両立をされている方もいらっしゃいます。上記の方針を参考にしながら、自分にあった治療方針を担当医と相談することが重要です。