男性性機能障害の治療について
男性性機能障害とは
男性性機能障害としては勃起障害が有名ですが、男性性機能は,①性欲(性的興奮),②勃起,③性交,④射精,⑤極致感(快感,オルガズム),に大別されます。通常は①〜⑤までが順次連係して発現することで,初めて男性性機能が正常であると考えられ,このうち1つ以上欠けるか,もしくは不十分なものを「男性性機能障害」と呼んでいます。具体的には,性欲低下,性嫌悪症,勃起障害(erectile dysfunction:ED),射精障害などの病態があります。日常臨床で見受けられる頻度としては勃起障害が最も多く,次いで射精障害となっております。
また,男性性機能障害は男性不妊症の重要な原因にもなっています。男性不妊症の原因のうち,男性性機能障害は精巣因子,精路因子に次ぐ第3の原因と言われています。
勃起障害(erectile dysfunction:ED)とは
完全に勃起ができない状態、ととらえがちですが、実はそうではありません。
勃起に時間がかかったり、勃起しても途中で萎えてしまったりして、満足のいく性交ができない・・・と感じる人は、いずれも EDの疑いがあります。
加齢に伴い増加することがわかっており、日本では40~70歳の男性の半数以上が何らかの原因でEDになっており、潜在的な患者数は1130万人に達するといわれております。一方、70歳代の男性でも半数以上が性生活で現役である、という調査結果もあります。したがってEDは高齢者社会の「生活の質」を考える上で大きな問題の一つです。
EDの診断
EDの診断と原因の特定には、経験してきた性交の際の状況、そして性交に対する意識や心理的な問題を問診や質問紙で詳しく伺うことが重要です。ED の問診票としては、IIEF5(International Index of Erectile Function:国際勃起機能スコア)というものが代表的です。5つの設問(25点満点)の合計点数が21点以下の患者さんでは、ED が疑われるとされています。またより簡便なED の自己チェック表として勃起の硬さを測る勃起の硬さをスケール(EHS: Erection Hardness Score)というものもあります。これらの問診表はご自身で自分の状態をチェックするのにも有用であり、ご自身の状態がご心配な方はぜひ自己チェックを行うことをお勧めします。
問診、質問紙による診察の後、器質的な原因として何らかの病気が潜んでいないかどうかを調べるために、血液検査や画像検査、身体診察などを行います。また、特殊検査として専門医のもと、夜間勃起現象の評価を行うため、リジスキャンプラスやエレクトメーターを行ったり、血管性EDの鑑別のため、プロスタグランジンE1の海綿体注射を行ったりすることがあります。
ED(erectlle dysfunction:勃起障害)セルフチェックシート
このセルフチェックシートは、IIEF(International Index of Erectile Function・国際勃起機能スコア)と呼ばれています。薬の必要な人を見分けたり、薬の効果を見ること等に使われています。
21点以下の場合、EDが疑われます。
この6ヶ月の状態で当てはまる症状を下記から選択してください。
- 1〜7点:重度
- 8〜11点:中等度
- 12〜16点:中等度〜軽度
- 17〜21点:軽度
- 22〜25点:正常
勃起の硬さスケール(EHS:Erection Hardness Score)
EDの原因
EDの原因は多岐にわたります。大きく分けて「機能性ED」と「器質性ED」があります。心理的な問題や精神的な問題が原因となる「機能性」のものと、陰茎海綿体やそれにかかわる血管、神経、内分泌環境などに異常のある「器質性」があります。
- 機能性ED
不安、緊張過多、ストレス、人間関係などの心理的な問題や、そううつ病、神経症など精神的な問題が原因で起こります。新婚EDなどの多くは機能性EDです。
- 器質性ED
血管、神経、内分泌環境などに原因するEDです。喫煙や糖尿病、心不全、高血圧、動脈硬化などがEDの発生に深く関連します。直腸癌や前立腺癌の手術によっても高率にEDが起こります。その他ある種の降圧剤、消化性潰瘍治療剤、向精神薬などの薬物が原因で起こることもあります。
EDは心筋梗塞、脳血管障害のサイン
EDと動脈硬化は関連が示されていて、EDは心筋梗塞、脳血管疾患等の前駆症状と言われています。勃起は血管の拡張により起こりますが、拡張不良となるとEDが起こります。全身に動脈硬化が進行すると、血管のサイズの小さい器官(陰茎)から症状が出現すると言われています。陰茎の血管は心血管、脳血管よりも細いため、EDが動脈硬化を示す早期のマーカーと言われています。
高血圧や脂質異常、肥満、糖尿病などの生活習慣病の有病者は、年齢が50歳頃から増え始めます。健診などの検査で異常値が出た人は、メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)診断されたことがある人の半数以上がEDの可能性が高いということが報告されています。
EDの治療
第1選択の治療法は現在、PDE5阻害剤と呼ばれる内服薬です。有効率は、機能性、器質性の原因を問わず、70-80%と非常に高いものです。ただし、基礎疾患の重症度によって有効率が異なる場合があります。日本ではバイアグラ、レビトラ、シアリスの3種類が販売されています。それぞれ、内服の仕方、効果発現時間、などに特徴があります。病院や薬局で相談されると良いでしょう。保険適応外ですので実費を払わなければ成りません。バイアグラなどの偽造品が出回っています。これらは安全性に問題があるものが多く、インターネットなどでの購入はお勧めできません。
PDE5阻害剤は、ほとんどの患者さんが安心して内服できる極めて安全性の高い薬剤です。しかし、重度の心臓の病気がある方は心臓に負担がかかる場合があり、内服できない可能性性があります。また硝酸剤(狭心症の薬)を服用中の方は血圧低下が起きるためPDE5阻害剤を服用することはできません。
また食事療法や運動療法、薬物療法によって、糖尿病を治療し進行を抑えることは、EDを治療するためにも重要です。糖尿病を治療することで、血流が良くなり、神経障害も抑えられます。糖尿病患者は、血糖値、血圧、コレステロール値をコントロールし目標数値に近づけておくことで、EDのリスクを低下させることができます。これらは糖尿病の他の合併症を予防するためにも重要であり、米国メリーランド州ボルチモアにあるチェサピーク泌尿器科アソシエイツによると、EDは糖尿病を早期発見するための指標となる可能性があると報告しています。
多くの場合でEDの治療は効果があります。当院では勃起障害、射精障害など男性性機能の問題について日本性機能学会の専門医が常勤で診療を行っております。特に前立腺癌、前立腺肥大治療後の患者の勃起障害の治療なども積極的に行っております。お気軽にご相談ください。