前立腺がん 治療について
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前立腺がんの治療について
前立腺がんの治療方法の考え方は大きく3つに分かれます。
- 転移のない早期がん
- 転移はないがPSAがかなり高くまた悪性度も悪い局所進行がん
- 骨転移やリンパ節転移があるがん
では、それぞれの標準的な治療を解説していきます。
1) 転移のない早期がん
転移のない早期がんでは手術、外照射、小線源、ホルモン治療、無治療経過観察、どの治療も選択できます。しかし、それぞれ利点、欠点がありますから医師と相談し、良く検討してから選んで下さい。
2) 転移はないが進行したがん
転移はないが進行したがんではやや選択肢が狭まり、通常、小線源療法は選択できませんし、無治療経過観察も基本的にはお勧めしません。ホルモン治療2−3年と外放射線療法の組み合わせが標準とされます。また、手術が選択されることもあります。
3) 転移のある場合
転移のある場合は、手術や放射線の様に局所の治療ではなく、基本的にホルモン治療となります。もし、身体のある部分のみに強い痛みがあれば放射線をあてることはありますが通常の前立腺への放射線療法とは異なります。
治療方法
- 【1】ロボット支援前立腺全摘術
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ロボット支援前立腺全摘術は、一般的にはロボット手術と言われています。
当院ではロボット手術において日本トップクラスの症例数を経験した医師やスタッフが在籍しておりますので、ご安心して手術に関するご相談をいただけます。詳しくは担当医にお尋ねください。- ロボット支援前立腺全摘術の特徴
- 入院期間約10日間。
- 手術前日に入院、手術当日は全身麻酔。
- 手術時間は約2〜3時間。
- 出血は少量(輸血の可能性は1%以下)。
- 手術後の痛みが少ない。
- 前立腺を取った後は膀胱と尿道を繋げ、クダを挿入します。そのクダを6日後に抜いて、排尿状態を確認して退院となります。
- 尿失禁の改善が早い。
- 性機能の改善が早い(個々のケースで神経の温存の適否を決めます)。
- 【2】外照射 (IMRT)
外照射 (IMRT)は、身体の外から前立腺に放射線を当てる治療法です。
従来までは前立腺に正確に当てることが難しかった為、十分な放射線量を前立腺に当てることができず、また、前立腺のまわりの膀胱や直腸などに当たってしまい副作用が出る可能性がありましたが、今では機器の改善・開発により外照射は標準治療の大切な選択肢の一つとなっています。
最近では、前立腺に正確に放射線を当てることができるIMRT(強度変調外照射)が主流となっており、良好な成績を得ています。
また、全国的には実施施設がまだ少ないですが重粒子、中性子治療を実施している施設もあります。- 外照射 (IMRT)の主な治療方法
前立腺の輪郭に沿うため下の写真様な特殊な装具を数個(図1)、放射線の出るところに装着し、10週間、月~金曜日まで毎日、少しずつ放射線を当て計78Gyという量の放射線をあてます。
正確に当てるために位置を決めたりするのに時間がかかり1回あたり約2時間ほど病院にいる必要があります。
副作用は少ないですが治療当初は便秘や下痢、痔の症状、頻尿などがあり、長期にわたり放射線性直腸炎や膀胱炎が起きないかを経過観察を行う必要があります。
転移がない前立腺がんでもPSAがかなり高かったり、針生検の悪性度が悪かったりする時には、約2年間のホルモン治療を実施し、その間にIMRTを実施することがあります。
- 【3】密封小線源療法
密封小線源療法は、ヨード125という放射線物質をチタンの小さいカプセルに入れて前立腺に40-100個挿入する治療です(下図)。
細かい計算のもとに実施するので前立腺の周りの直腸や膀胱への影響が少なく副作用の少ない治療と言えます。
デアミーコのリスク分類の低リスクの方が最も成績が良いですが最近では中~高リスクの方も実施しています。 高リスクの方は他の要素も考慮に入れてこの治療が適しているか判断されます。- 密封小線源療法の主な治療の流れ
前立腺が40cc以上の大きさになると小線源が100個以上いることになり、また挿入が難しくなるためホルモン治療を数か月実施して40cc以下にしてから実施します。
経験的には55cc前後の方は可能ですが60cc以上になるとホルモン治療でも40cc以下に縮小してくれるかは予測が難しくなります。
通常、治療前日に入院し、当日に腰椎麻酔(背中から実施する部分麻酔)下に施行します。通常は挿入時間は30分程度ですがその前後に準備などありますので全部で約2時間かかります。手術時から尿道に管(カテーテル)が入り翌日の朝に抜きます。その後、排尿状態を確認し熱、血尿などなければ退院になります。上図は体の縦断面になります。超音波の細長い器械を肛門から直腸に入れ、超音波上の前立腺の画像を見ながら細い針を肛門の上の皮膚(会陰部)から入れます。
入れた針を通してねらったところに小線源のカプセルを置きます。この繰り返しで放射線の医師が計画してくれた通りに前立腺全体に十分な放射線が当たるようにします。
退院後、1か月後に外来で細い尿道カテーテルを挿入しCT検査を受けます。左図下のように前立腺の中に白い点がいくつも見えます。
これが小線源で、このCTをもとに放射線医師が放射線の分布図を書き、前立腺全体への放射線量を決定します。これがその後のことを占う大事な検査とされます。
その後は定期的に外来でPSA採血検査を継続します。最初は1か月後に外来に来てもらいますが、その後は2か月後、3か月後とだんだん長期間になります。通常、PSAは少しずつ下がり2年後前後で0.1〜0.2ほどで落ちつくことが多いです。
- 【4】内分泌治療
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内分泌治療とは飲みぐすりや注射で男性ホルモンを抑える治療です。
前立腺や前立腺がんは男性ホルモンに依存して成長することが特徴で、男性ホルモンを減少させることで劇的に効果を示す治療です。内分泌治療は基本的に全身の治療であり、転移のない早期がんには最初から積極的には用いません。
その理由は乳房痛、ほてり、血栓症(心筋梗塞や脳梗塞)のリスクが上昇、長期投与による骨や筋肉の脆弱化などの副作用があり、さらに内分泌治療を継続する中で効果がなくなりその後の手だてが限られてくるなどの欠点があるからです。
しかし、高齢であったり、他の病気で麻酔がかけられず手術ができない場合などには選択するケースがあります。内分泌治療の多くはかなり長期間継続するのが原則ですが、場合によっては休みを入れて継続するやりかた(間歇療法)もありますので主治医と十分な相談が必要です。
副作用の心筋梗塞や脳梗塞が比較的多い欧米ではできるだけ内分泌治療を避ける傾向にありますが、日本では古くから内分泌治療を積極的に用いてきた経緯もあり、早期癌でも内分泌治療を好む医師もいます。それが絶対悪いわけではありませんが、手術・放射線治療を勧めず内分泌治療を勧められた場合には、その理由を十分に話し合う必要があります。
また、中には「とりあえず内分泌治療を始めて」その後、他の治療を考えましょうという医師もいまだにいますが、内分泌治療はとりあえず行う治療法ではありません。さらに世界的に手術前の内分泌治療はあまり意味のない治療であることがはっきりしているのですが日本では未だに内分泌治療と手術をセットで考えている医師がいるのは残念です。
内分泌治療は脳の下垂体に効く薬剤を注射をすることで精巣からのアンドロゲンを抑える方法と内服薬(抗アンドロゲン薬)でアンドロゲンが前立腺の細胞に働きかけるのを防ぐ方法の2つあり、この注射と内服薬を併用する完全アンドロゲン遮断療法(MABやCAB療法と呼ばれる)が多く行われています。
実際に使用する注射(商品名)はリュープリン、ゾラデックス、ゴナックスなどがあります。
- 【5】経過観察(PSA監視療法)
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前立腺がんと診断されたのにも拘らず、積極的な治療をせず、時々PSAの測定や針生検をしながら様子をみる『経過観察(PSA監視療法)』という手段もあります。
これは前立腺がんの成長が多くの場合ゆっくりであり、一生の間、命や生活を脅かす可能性が少ない可能性があるからです。典型的なのは高齢者(例えば75歳)で前立腺肥大症の診断を受け、手術で前立腺の内側を削ることがありますが、その削った標本の中にたまたま前立腺がんが見つかった場合は、早期がんの中でも極めて早期がんと判断され、経過観察をすることが標準的な治療とされます。
一般的にこの方法をとる場合はPSA値、悪性度(グリソンスコア)が低く、直腸診でも触れない程の低リスクがんが対象となり、低リスクで高齢者であれば平均的な寿命(余命)を考えるとのバランスを考えてこの方法を選ぶことがあります。
最近は50歳代はもちろん、40歳代後半でもよく前立腺がんがみつかります。
若年者だからこそ、尿失禁や性機能障害が起こりうる治療を避けて経過観察をしようという考えもありますが、一方で若年者こそ余命は数十年あり、その長期の中で「治癒できるタイミング」を失う可能性がありますし、待てば待つほどいろいろな選択肢を失う可能性もあります(手術で神経温存できなくなったり)。実際のところ約半数の方がこの方法を始めてから5年以内に結局、積極的な治療に移行します。
その理由はPSAの上昇、再度針の検査でその内容が悪化そして本人の不安があります。
これらのことを十分に理解・納得して選択する必要があります。