ロボット支援下根治的膀胱全摘除術とは?
ロボット支援下根治的膀胱全摘除術
(RARC : Robot-Assisted Radical Cystectomy)
膀胱の筋肉まで浸潤した(Tステージ2以上)膀胱がんや、BCG膀胱内注入療法などの薬物治療に治療抵抗性の悪性度の高い筋層非浸潤性膀胱がんに対する標準治療は膀胱全摘除術(RC:Radical cystectomy)です。以前から開腹での膀胱全摘除術が広く行われ、安定した治療成績が示されてきました。しかしながら、開腹膀胱全摘除術は手術中の出血量が多く輸血の施行率が高いこと、傷が大きく術後の回復が遅れることなど、周術期の合併症の発生率が比較的高い手術であり、改善すべき課題が多い術式と考えられていました。
その後、腹腔鏡下手術の進歩により腹腔鏡下膀胱全摘術(LRC:Laparoscopic radical cystectomy) が開発され、出血量が少なく、合併症率,手術時間,癌治療効果ともに開腹膀胱全摘除術と相違ないことが示され、一部の施設で行われてきました。東京国際大堀病院でも膀胱全摘除術が必要な患者さんに対し、積極的に腹腔鏡下膀胱全摘術を施行し、合併症の少ない治療を行ってきました。
近年lntuitive Surgical社製の手術用ロボット:daVinci surgical systemが日本でも普及し、ロボットを使用した手術(ロボット支援手術)が前立腺全摘除術、腎部分切除術を行う際に使用されてきました。近年膀胱全摘除術においても、ロボットを用いることで三次元の立体的な画像を見ながら、腫瘍と臓器の正確な位置関係をとらえ、より繊細な手術を行うことが可能になりました。従来行っていた腹腔鏡手術と異なり、人間の手の関節以上に自由度の高いロボット鉗子を用いることで、膀胱周囲組織の精密な切開や、膀胱の摘出、リンパ節郭清などの手技をより正確に早く行うことが可能です。また、腹腔鏡手術と同様に傷口が小さいため、術後の痛みが少なく、患者さんの社会復帰も早めることが可能になりました。すなわち、ダビンチを用いたロボット支援下膀胱全摘除術(RARC)は、開腹手術と腹腔鏡手術の利点を合わせ持った術式と言えると思います。
ロボット支援下膀胱全摘術+尿路変更術の流れ
手術の概要
- 入院期間:3〜4週間
- 全身麻酔+硬膜外麻酔
- 手術時間:4〜8時間
- 保険適用手術
手術前に行うこと
- 診断の確認(内視鏡手術の結果・画像)
- 他の大きな病気の有無・程度を確認
- 内服薬の確認
- 手術前検査:心電図、呼吸機能検査、胸部・腹部レントゲン写真、採血(感染症など)
※必要に応じて内科医・麻酔科医と相談
入院から退院まで
- 手術の前々日に入院していただきます。
- 入院後、担当医と看護師から手術の説明があります。
- 手術日は午前9時から手術を行います。
- 手術時間は5〜8時間(膀胱全摘2時間、リンパ節郭清1時間、回腸導管の場合2時間、新膀胱造設の場合3時間かかります)。
- 手術当日はベッド上で過ごしていただき、手術翌日から歩行可能です。
- 腸の動き、腹部レントゲンを確認してから食事が始まります(通常は3、4日後から開始されます)
- 手術後10〜14日後に尿管カテーテル(手術中に入れる腎臓から尿管を通し回腸導管あるいは新膀胱に入る)を抜きます。
- 回腸導管の方はストマ管理に慣れたら退院となります。新膀胱の方は尿道カテーテルを抜き、排尿状態を確認し退院となります。
手術の流れ
- 前々日入院
- 全身麻酔+硬膜外麻酔
- 6個のポート挿入
- 30度頭側を下げる
- 手術実施
- 手術終了、麻酔終了
- 病棟へ移動
- 3、4日後から食事再開
- 約2週間後に尿管の管を抜く
- 回腸導管の方はストマ管理に慣れたら退院へ
- 自然排尿型膀胱の方は尿道の管を抜き、排尿状態を確認し退院へ
当院でおこなったロボット支援下膀胱全摘術の術後写真
《※患者様に許可を得て掲載しています》
写真左の患者さんは尿路変更術に「代用膀胱造設術」を選択したため、尿を出すストーマがありません(→尿路変更術に関して詳しくはこちら)。従来の開腹手術ではお腹に大きな傷がつくため、強い痛み、創部感染、術後回復遅延が問題点でした。当院では傷口が小さくなるよう、手術方法を工夫し実施しています。患者さんの術後の回復・社会復帰が早いのを実感しています。
東京国際大堀病院ではロボット支援下膀胱全摘除術(RARC)を積極的に行っています。身体に大きな傷を入れることなく、回腸導管造設術、代用膀胱造設術などの尿路変更術も実施しています。これからも負担が少なく、安全で正確な膀胱がんに対する治療を目指していきます。膀胱がんの治療についてご相談のある方は、泌尿器科外来(病院代表TEL: 0422-47-1000)または無料ネット相談までお問合せください。
参考文献
- ロボット支援根治的膀胱全摘除術の経験:権藤立男ら泌尿器外科 24巻6号 Page1015-1021(2011年)
- ロボット支援腹腔鏡下膀胱全摘除術の手術成績:権藤立男ら第25回日本泌尿器内視鏡・ロボティクス学会 (2011年)
- Robotic versus open radical cystectomy: prospective comparison of perioperative and pathologic outcomes in Japan. Gondo T et al. Jpn J Clin Oncol. 2012 Jul;42(7):625-31.
- ロボット支援下膀胱全摘除術・尿路変向術の安全な導入と手術手技:ロボット支援下膀胱全摘術の安全な導入と周術期治療成績:権藤立男第83回日本泌尿器科学会東部総会ワークショップ (2018年)
- ロボット支援下膀胱全摘術の安全な導入と周術期治療成績:権藤立男ら泌尿器外科 (0914-6180)32巻臨増 Page719-720(2019.06)
- Peri-operative efficacy and long-term survival benefit of robotic-assisted radical cystectomy in septuagenarian patients compared with younger patients: a nationwide multi-institutional study in Japan. Iwamoto H, Morizane S, Koie T, Shiroki R, Kawakita M, Gondo T, et al. Int J Clin Oncol. Dec;24(12):1588-1595 (2019).
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