前立腺がん 病期診断・リスク分類
前立腺がんと診断された後は、病気の状態を把握するための検査をします。病気の状態を表す分類で、典型的なのがTNM病期分類です。 T(tumor)は前立腺のがんの状態、N(nodes)はリンパ節転移の有無、M(metastasis)は遠隔転移のことを意味します。また、理解しやすい分類としてダミコ分類の低・中・高リスクがあり臨床医にも多用されています。さらに詳細なNCCN分類もあります。
また一人一人のリスクの数字を計算するノモグラムという方法もあります。前立腺がんの場合、骨盤内のリンパ節転移や骨転移が問題となりますので、CTや骨シンチグラフィー検査を実施します。
- 直腸診
古くから医師の指を直腸に入れ、前立腺を触る直腸診が病期診断の基礎となっています。指で触れないがんはT1, 触れるがんはT2(大きさによりT2a, T2b, T2cに分けられる)、前立腺を包む膜を飛び越えている(T3a)あるいは隣接した精嚢へ浸潤している(T3b)と判断されることもあります。
- CT
前立腺周囲、骨盤内のリンパ節を主にチェックします。また見える範囲で骨の状況もわかります。
- 骨シンチグラフィー(核医学検査)
ストロンチウムを少量注射して3、4時間後に全身の骨を撮影して骨転移の有無を見ます(低・中リスクの方は必ずしも必要ではありません)。
- MRI
診断のために実施したMRI検査をそのまま用いられます。MRIは現在、前立腺の内部を観察するのに最も良い検査で、前立腺がんが隣の精嚢へ浸潤していないか、前立腺をつつむ膜を飛び越えて外に広がっていないかなどを見ます。CTと同様に見える範囲で骨のチェックもします。
前立腺がんTNM臨床病期分類
- T1
- 直腸診で明らかでない、偶然発見されたがん
- T1a
- 前立腺肥大症などの手術で切除組織の5%以下に発見されたがん
- T1b
- 前立腺肥大症などの手術で切除組織の5%以上に発見されたがん
- T2c
- PSAの上昇などのため針生検で発見されたがん
- T2
- 直腸診で触れ、前立腺内に留まるがん
- T2a
- 前立腺左右のどちらだけの1/2までのがん
- T2b
- 前立腺左右のどちらだけの1/2を超えるがん
- T2c
- 前立腺左右の両方に及ぶがん
- T3
- 前立腺の被膜を越えて広がったがん
- T3a
- 前立腺の被膜を越えて広がったがん
- T3b
- 精嚢まで及んだがん
- T4
- 前立腺に隣接する組織に及んだがん
- N0
- リンパ節転移がない
- N1
- リンパ節転移がある
- M0
- 遠隔転移がない
- M1
- 遠隔転移がある
ダミコ分類
患者さんにとっても医師にとってもわかりやすい分類にダミコ(米国、ハーバード大学の放射線科の先生)分類があります。これは血液のPSA値、直腸診の結果、針生検のグリソンスコアの結果を組み合わせて、低・中・高リスクの3つに分類します(表)。とても分かりやすい分類ですが、分け方が大まかすぎて、それぞれのグループ内の幅がありすぎるのが難点です。
直腸診 | PSA値 | 生検/グリソンスコア | |
低リスク | 触れない(あるいは小さく触れる) | さらに10未満 | さらに6(3+3)以下 |
中リスク | 触れる(片側に小さくT2a、あるいは大きく触れるT2b) | または10-20 | または7(3+4,4+3)以上 |
高リスク | 触れる(両側に触れるT2c、あるいは前立腺を飛び出すように触れるT3) | または20以上 | または4+4以上 |
ダミコ分類による手術後の再発率
例えば、生検のグリソンスコアが4+4の人は高リスクに分類されますが、PSAが8で直腸診で触れず、しかも生検で12本中1本しか見つかっていない場合も良くあります。同じ高リスクに分類されるPSA20, 直腸診でT3, 生検12本中10本にグリソンスコア4+5の前立腺がんが見つかった方とは実際は治療後の成績は大きく異なります。それぞれの群に幅あることを理解しながら治療方針を決める必要があります。
NCCN病期分類
NCCNのガイドラインによるリスク分類は、ダミコ分類にさらに針生検の結果や PSA density(密度)を加えた分類で、その結果から超低リスク群や超高リスク群に分けています。特に早期がんの中でも早期である超低リスクは治療において経過観察を選択する上で参考になります。
臨床病期 | グリソンスコア | PSA | 針生検 | PSA density | |
超低リスク | T1c | 6以下 | 10以下 | がんが出た本数が3本以下で、各がんの標本に対する割合が50%以下 | 0.15以下 |
低リスク | T1c—T2a | 2-6 | 10以下 | – | – |
中リスク | T2b-T2c | または7 | または10−20 | – | – |
高リスク | T3 | または8−10 | または20以上 | – | – |
超高リスク | T3b-T4 | – | – | – | – |
転移性 | いずれのTでもリンパ節転移あり | – | – | – | – |
転移性 | いずれのTで、リンパ節転移有無でも骨転移などの遠隔転移あり | – | – | – | – |
ノモグラム
ノモグラムは統計学な手法を使って、PSAや直腸診、グリソンスコアなどを点数化して、その点数を足して、その結果により治療後の再発率を予測するものです。前述したリスク分類と違い、予測値(例えば手術後の再発率)を個々の患者さんに出します。 現存する予測のモデルの中ではノモグラムは最も正確で、自分がこの治療を選んだら、5年後、10年後の再発の可能性はどれくらいと予想できますので、治療後の心構えや生活を構築する上でとても大切だと思います。
ノモグラムの例
ここではPSA, 生検のグリソンスコアそして臨床病期を使って手術後1、3、5、年後の非再発率を出しています。それぞれの結果を一番上の点数に当てはめ、その合計点を中央にある総点数に当てはめ、それを下方に伸ばし非再発率で一致するところが非再発率になります。
例えばPSAが10、生検グリソンスコアが7、臨床病期がT1cですと、それぞれ上の点数が20点、14点、0点で合計が34点になりますので、それを総合点数に当てはめて下方の非再発率をに当てはめますと、1、3、5年後の非再発率はそれぞれ90%以上(ほとんど再発無し)、89%、84%となります。5年後の非再発率84%、つまり16%の方が再発する可能性ありと言うことです。
グリソンスコア
病期分類ではありませんが前立腺がんの予後や治療成績と関わる最も大事な因子がグリソンスコア(Gleason score)です。
米国の病理のグリソン先生が開発したスコアがグリソンスコアです。多くのがんと同様に前立腺がんも顕微鏡で見ると一つの前立腺の中でも比較的良いがんと悪いがんが混在しています。良いがんを1点として悪くなるにつれて1点使いし最も悪いものを5点とします。前立腺の中で一番大きいがんを1から5点で点数を付け、2番目に大きいがんを11−5点で表し、その合計、例えば3点+4点で合計7点。これをグリソンスコアと呼びます。以前は1、2点も付けていましたが、現在では最低が3点で、最低が3+3、最悪が5+5と表されます。我々が現在、手術をしている対象の多くの方が3+4や4+3あるいは4+4です。古くからあるグリソンスコアですがなぜ未だに使用されているかというと、前立腺がんの各治療後の再発や転移を予測する能力が高いからです。3+3の前立腺がんの方が治療後に再発をきたす可能性はとても低いですが、4+5、5+4、5+5など5の成分が入ってくると再発率が高くなります。前述したリスク分類の中でグリソンスコアの役割は大きいですが、グリソンスコア一つで決まるわけではなく、3+4の人でもPSA値が低い方と高い方では再発率も異なります。
グリソンスコアの例
手術で摘出した標本を例にしてみてみましょう(左図)。前立腺の一断面を見ていますが、大きながんがあり、しかもグリソン3、4、5が混在しているのがわかります。この例では一番面積が大きいのがグリソン4、2番目が5ですのでグリソンスコア4+5となります。
右図では実際の全摘標本上の前立腺を示します。左側に線で囲まれたのが前立腺がんでグリソンスコア3+4でした。
最後に
現在、各治療方法がかなり確率され、早期がんの方の選択肢は広がっています。皆さん、ここで悩まれますが、各治療の利点・欠点を良く考えて決めて頂きたいと思います。診断時、すでにリンパ節転移や骨転移がある方は内分泌治療が中心となります(場合によっては早期に化学療法を勧める場合もあります)。いわゆる転移がない早期がんは、どの治療を選択しても間違いではありません。年齢、持っている別な病気の状態(糖尿病や心疾患など)、治療それぞれの利点・欠点を検討しながら、ご希望に添いつつ決定していきます。