前立腺がん 手術後再発の治療戦略
手術で前立腺を摘出したのになぜ再発するのか?
当然の疑問だと思います。しかし、胃がんであれ大腸がんであれ、ほとんど全てのがんの手術で摘出して終わりという手術はありません。手術した時に既に外に広がっていると後々、再発が起こり得ます。前立腺の場合は、過去の多くの報告から100人手術すると20人は再発します。しかし、PSA再発となっても、すぐに命や生活の問題となることはほとんどありません。実際、前立腺がんの5年・10年生存率はそれぞれ99〜100%、97〜99%と言われているように手術後に短期間に命を奪われる可能性は低いです。
再発の定義
前立腺の場合、前立腺からしか出ないP S Aが前立腺を摘出すると約2ヶ月後にはゼロ(実施は0.01以下とか0.008以下で表されます)になります。それが0.2以上に上がると再発となります。多くの再発が手術後2年以内ですが、2年以降もあり得るので5〜10年PSAを観察していく必要があります。
PSAが0.2を超えていくと、まず、すべきことは全摘した病理標本の見直しです。
病理結果で、がんが大きい、グリソンスコアが悪い(4+4、4+5、5+4、5+5など)、被膜外浸潤がある(前立腺を包む膜を超えている)、隣の精嚢腺に浸潤している、外科切除縁陽性(がんが表面に露出している)などが明らかであれば、治療へ移ります。病理結果が悪くてもPSAが急激に上昇していくのは稀ですので当面、何もせず経過を見る選択肢もありますが、明らかな上昇傾向を示すようであれば治療は開始すべきです。
上記の悪い病理結果がない場合、PSAの上昇ががんの再発を示さないことがあり得ます。ややわかりにくい話ですが、手術時に膀胱と前立腺、前立腺と尿道の間を切るのですが、境目に印が付いているわけではないので経験的に決めて切ります。結果的にがんではなく、良性の前立腺の組織が少し残ってしまうことがあります。これが後々、PSAを微量に出してしまうことがあります。従って、病理の結果が悪くなければ、すぐに治療をせずに経過を見ることがあります。しかし、悪いPSAと良いPSA上昇を完璧に見分ける方法がないので、特にお若い方は病理の結果はさほど悪くなくても治療に移行することも多いです。
治療方法
実際の治療方法が4つあります。1)放射線治療、2)内分泌治療、3)化学療法、4)経過観察、です。
3)の化学療法もあり得ますが、実際はこれをすぐに選択することはなく、1)か2)あるいは1)と2)の組み合わせとなります。また既に説明したように病理の結果が悪くない、PSAの上昇がゆっくりである、患者さんもすぐの治療をご希望されないなどの条件下で経過観察もあり得ます。経過観察の場合は定期的にPSAをチェックし必要ならCTなどの画像検査も実施します。
1)放射線治療
手術後の再発で唯一、根治が期待できる治療です。問題点の一つに6〜7週間、毎日、月曜から金曜まで通院して少しずつ放射線を当てなければならないことです。従って、自宅や仕事場の近くの病院を選び通院する必要があります。初日は1〜2時間で放射線を当てる場所を決めますが、翌日からは1回10〜15分ほどで終わります。副作用に一時的な頻尿・頻便、痔の悪化、下痢などがありますが仕事を含め日常生活に大きな支障がないことが多いです。極めて稀ではありが、血尿・頻尿・排尿困難などを起こす放射線性膀胱炎を起こすことがあります。
2)内分泌治療
お薬や注射で男性ホルモンを抑える治療です。多くが劇的に効果を示し、P S Aは数ヶ月でゼロ近くになります。放射線との組み合わせで実施する場合は6ヶ月〜1年間実施し、副作用で困ることは少ないですが、内分泌治療単独ですと長期にわたるので副作用が問題となることもあります。
副作用はほてり、多汗、体重増加、糖尿病の悪化、などがありますが、長期になると骨粗鬆症、筋力低下などもあります。日本では稀ですが心筋梗塞や脳梗塞のリスクも上がるのでこまめな水分補給が必要です。
3)放射線と内分泌治療の組み合わせ
以前はそれぞれの治療を単独ですることが多かったのですが、組み合わせの方が効果があり成績も良いとの報告があり増加しました。例えば1年間の内分泌治療の間に放射線治療も合わせて実施するやり方です。しかし、最近のランダマイズ臨床研究では組み合わせ治療の効果が少ないとの報告でいまだに議論の多いところです。