排尿障害センターにおける前立腺肥大症の治療について
人生100歳時代を迎える中で、さらに排尿障害への対処が重要になってきています。
男性では前立腺肥大症、女性では尿失禁をきたすような過活動膀胱も極めて多い病気です。近年、新しい治療がどんどん出てきており、我々、泌尿器科医も常に勉強し、最新のものを提供したいと考えています。
当院では経験豊かな實重学(さねしげまなぶ)先生を2023年12月より迎え(木曜外来)、排尿障害センター長として中心的役割を担って頂くこととしました。
また、東京都リハビリテーション病院の泌尿器科部長を長く努められた排尿障害の専門家である鈴木康之先生に月曜・金曜の外来を担当して頂いています。
以下に、男性で最も多い前立腺肥大症の内服治療・外科的治療について説明します。
内服治療
前立腺肥大症は原則として内服治療から開始します。
内服治療には尿道を広げる薬や、前立腺を小さくする薬を使用します。
当院では泌尿器科専門医が患者様の症状や前立腺肥大の重症度にあわせて内服調整を行ってまいります。
ただし、以下の場合には外科的治療をお勧めします。
(1)内服治療で効果が不十分な場合(中等度から重度の症状の場合)
(2)尿閉(膀胱(ぼうこう)に溜まった尿が出なくなること)を繰り返す場合
(3)尿路感染症や血尿を繰り返す場合
(4)膀胱結石を認める場合
(5)残尿が多いため腎機能障害が進行する場合
排尿障害センターでの外科的治療
排尿障害センターでは前立腺肥大症の手術療法に力を入れており、現在利用可能なほとんどの手術方法を導入しています。いずれも 日本泌尿器科学会ガイドラインにおいて推奨されている、低侵襲で安全な治療法です。
古くから標準的治療法であった「経尿道的前立腺切除術(Transurethral resection of Prostate:TUR-P)」よりもさらに安全で合併症の少ない「生理食塩水潅流(かんりゅう)経尿道的前立腺切除術(bipolar-TURP)」
大きな肥大線腫に対応できる経尿道的前立腺核出術(TUEB)
現在の標準であるホルミウムレーザーを使用して肥大を削る経尿道的ホルミウムレーザー前立腺核出術(HoLEP)
性機能障害の起こりにくい経尿道的前立腺吊り上げ術(Urolift)
当院ではこれらの手術法から患者様に最も適した治療法を担当医師と相談の上、選択していただきますので、各治療法に関する疑問点など遠慮なくご相談ください。
生理食塩水潅流(かんりゅう)経尿道的前立腺切除術(bipolar-TURP)
前立腺肥大症の標準的治療として、従来よりTUR(経尿道的切除術:Transurethral resection ofprostate)が広く施行されておりますが、当院では出血量が少なく、低ナトリウム血症が起こりにくい、安全なbipolar-TURを施行しております。
経尿道的前立腺核出術(TUEB)
当院では従来型の手術(TUR-P)をより安全で高い治療効果が期待できる生理食塩水還流経尿道的前立腺切除術(b-TURP)を施行してまいりました。(b-TURP)は手術時間の短さなどの長所もありますが、肥大の大きな前立腺の場合は、手術中の出血量の増加や術後の再肥大化などが発生するなどの欠点がありました。
そこで当院では、その欠点を補うために、経尿道的前立腺核出術(transurethral enucleation with bipola:TUEBチューブ)という手術法を導入いたしました。
ホルミウムレーザー前立腺核出術(Holmium Lasor enuculation of Prostate; HoLEP)
中等度以上の前立腺肥大症に対して主として「ホルミウムレーザー前立腺核出術(HoLEP)」による内視鏡手術を行っています。内視鏡の先についたレーザーメスで肥大した前立腺腺腫を安全・確実に切除していく手術です。
Rezumを用いた前立腺肥大症の経尿道的水蒸気(WAVE)治療について
WAVE治療は2022年9月保険承認された新しい前立腺肥大症の内視鏡手術です。水蒸気を用いて前立腺を縮小させ、肥大症を治療します。低侵襲かつ異物を体内に残さずに治療することが可能になります。
経尿道的前立腺吊り上げ術(Urolift)
UroLiftシステムによる治療法は「経尿道的前立腺吊上術」とも呼ばれ、米国泌尿器科学会と欧州泌尿器科学会の両方のガイドラインにて、前立腺肥大症の治療として経尿道的前立腺吊上術が推奨されています。世界中の一部の市場で、30万人以上の男性がUroLiftシステムで治療を受けています。
前立腺肥大症に対する各手術の特徴
それぞれの方法に特徴的な利点があります。前立腺が60〜100グラムの大きい前立腺肥大症はHOLEPが最も適しています。
Rezum(レジューム)は大きい肥大症でも膀胱に突出した肥大症でも可能で短期間の入院で済みますが、効果が出るまで少し時間がかかるので手術後のカテーテルが長めに入ります。
UroLiftは前立腺がさほど大きくない(40グラム以下)、主に年齢が若い、活動的な方に最も効果が大きいと思われます。
いずれの治療も全身麻酔下に高齢の方にも安全に行われます。お薬より効果がありますので病院通院の必要もなくなります。
入院期間 | 術後の尿の勢いの改善度 | 出血 | 性機能への影響 | 良い対象 | 問題点 | |
HOLEP | 5~7日 | とても良い | 少ない | 少しある可能性 | 前立腺がとても大きい、膀胱へ突出あり | 入院期間 |
TURP | 5〜7日 | とても良い | 少ない | 少しある可能性 | 前立腺がとても大きい、膀胱へ突出あり | 入院期間、稀に出血が多い時がある |
TUEB | 5〜7日 | とても良い | 少ない | 少しある可能性 | 前立腺がとても大きい、膀胱へ突出あり | 入院期間、稀に出血が多い時がある |
Rezum | 1〜3日 | 良い | とても少ない | ほとんどない | 中程度以上の大きさ | 効果が出るまで尿道カテーテルを5〜7日入れる必要、 尿閉の場合は30日程度入れる必要。 |
UroLift | 1〜3日 | 良い | とても少ない | なし | 中程度以下の大きさ | 前立腺変形(中央が大きい)には向かない |
各手術方法の手術後1年時の成績
BL(ベースライン)*1 | Rezum | UroLift | HoLEP | B-TURP | TUEB*3 | |
IPSSスコア*2 | 22.0 | 10.3 | 11.37 | 3.79 | 6.63 | 4.3 |
尿流量ml(Qmax) | 9.9 | 15.1 | 11.99 | 25.25 | 17.37 | 13.2 |
排尿後残尿量(PVR) | 82.4 | 78.6 | 71.29 | N/A | 20.3 | 37.2 |
再手術率(%) | — | 2.2 | 5.0 | N/A | 7.3 | N/A |
- *1 BL(ベースライン)
- 治療前197名(米国)の前立腺肥大症患者数平均値
- *2 IPSSスコア
- 前立腺肥大の重症度(残尿感、頻尿、尿線途絶、尿意切迫感、尿意切迫感、尿勢低下、腹圧排尿、夜間頻尿回数)スコアが高いほど重症
合計点数が0~7点は軽度、8~19点は中等度、20~35点 は重度に分類されます - *3 TUEB
- TUEBのデータは国内学会報告値
手術方法それぞれに特徴的な利点があります。HOLEPは症状(IPSS)が最も改善し、尿の勢い(尿流量)も一番良くなりますが、大きい肥大症ですと4泊5日ほどの入院が必要です。B―TURPやTUEBはHOLEPに次いで症状・尿勢の結果が良く、経験のある医師ではHOLEPに匹敵します。Rezum, UroliftはHOLEPより、成績はやや落ちますが通常1泊入院で可能です。
その他の治療
尿道ステント留置術
前立腺の中を通る尿道にステントを挿入し、尿の通り道を開通させ、排尿できるようにする治療法です。主に前立腺や神経因性膀胱、尿道狭窄の治療に有効とされていますが、尿道カテーテル(尿道バルーン)でお悩みの患者様にも効果的な治療法です。