前立腺がん PSAが高いと言われたら
多くの方が人間ドック、検診あるいは泌尿器科の外来で血液のPSA検査で異常を指摘されることがきっかけとなります。その後、泌尿器科の外来において直腸診で前立腺に硬いところはないかチェックし、直腸から入れる超音波検査で前立腺の形・大きさ・がんを疑う部位がないかどうかチェックします。その後、必要であれば前立腺MRIをチェックするのが一般的です。
PSAとは?
前立腺特異抗原(PSA)は健康診断などで測定される前立腺がんの腫瘍マーカーです。一般的にPSAが4.0 ng/ml以上の場合前立腺がんの可能性があり(年齢によって、3.5や3.0を基準とすることがあります)、泌尿器科専門医の受診が勧められます。しかしながらPSAが高いからといって必ずしも“がん”というわけではありません。PSAは前立腺肥大症や前立腺の炎症などの良性疾患でも高くなることがあり、われわれ泌尿器科の医師はPSAが高い原因や前立腺がんの有無を的確に診断しなければなりません。最終的に前立腺がんの有無を確定するためには「前立腺生検」と呼ばれる組織検査が必要になります。
PAS高値の場合の再検査・精密検査について
PSAが高いと言われた場合、泌尿器科では一般的に下記の検査を行い、前立腺がんの可能性が高いかどうか調べます。
PSAの再検査
PSAが炎症で上がっていた場合、再検査で正常値になる可能性があります。
直腸診
お尻の穴から指を入れ、直腸越しに前立腺の触診を行います。通常前立腺は消しゴムのような硬さ(弾性硬)として触れますが、“がん”の多くは石のような塊として触知します(石様硬)。直腸診で初めてがんが疑われることもあります。がんの広がり(前立腺の外まで広がっているか)も分かることがあり、古くから重要な検査と考えられていますが、前立腺の全ての場所を触ることはできないため、他の検査と併せて判断することが必要です。
PSA FT比(Free-Total PSA比、エフティー比)
PSAは主に前立腺から作られるタンパク質ですが、その中にはFree-PSA(フリーピーエスエー)と呼ばれる成分が含まれています。このFree-PSAがPSA全体を100%とした場合、どれくらいの割合(何%)で含まれているかの比率を算出した数値がPSA FT比です。例えばPSAが6.0 ng/mLで、Free-PSAが1.5 ng/mLだった場合、1.5÷6.0×100=25%という計算になります。
一般的に前立腺がん細胞の中にはFree-PSAが少なく、逆に良性の前立腺細胞はFree-PSAを多く含むことが知られています。したがって、PSA FT比が小さい(つまりFree-PSAが少ない)ほど、前立腺がんが存在する可能性が高く、PSA FT比が高い(つまりFree-PSAが多い)ほど、前立腺肥大症などによりPSAが上昇している可能性が高いと判断されます。何%であれば“がん”が存在するという明確な数値はありませんが、PSA FT比が10%未満であれば前立腺がんの可能性が高く、20%以上であれば前立腺肥大などによるPSA上昇の可能性が高いと言われています。10−20%の間の場合、どちらとも言えません。この検査のみで前立腺がんの有無を確定することはできませんが、他の検査と併せて、がんの可能性を判断します。
腹部超音波検査、経直腸前立腺超音波検査
前立腺の大きさ(体積)を測定し、前立腺肥大があるかを調べます。また、超音波検査で前立腺は淡い白い組織として描出されますが、前立腺がんが存在する場合、“がん”の場所は黒く見えることがあります(hypo echoic lesion)。
前立腺MRI検査
現在、前立腺がんの存在を診断するためにもっとも優れた画像検査がMRIです。近年、MRI検査の進歩に伴い、前立腺がんの有無だけでなく、画像所見から、がんの位置、大きさ、悪性度などがある程度の確率で予測することが可能になりました。MRI画像の結果で、がんの可能性を5段階予測する(1点: 癌がんの可能性が極めて低い 2点: がんの可能性が低い 3点: どちらとも言えない 4点: がんの可能性が高い 5点: がんの可能性が極めて高い)PIRADS-score (パイラズ-スコア) がヨーロッパを中心に提唱され日本でも広く用いられるようになり、がんの可能性を客観的に評価できるようになりました。最近はPIRADS-scoreをもとに、前立腺生検をするかしないか決める施設が増えています※
※最近の考え方としては、PIRADS-scoreが3点以上の場合、前立腺生検を勧めることが多くなりました。しかしながら、PIRADS-scoreが1-2点であっても、前立腺がんが絶対に無いとは言い切れません。MRI画像だけでなく、PSA値、前立腺の大きさ、年齢、直腸診の所見などから、前立腺生検を行うべきか、慎重に判断することが必要です。
検診などでPSAが高いと言われた場合、あるいは前立腺がんが心配で検査を希望される患者さんに対して、当院では以上の検査を行い、前立腺がんが存在する可能性を調べています。
上記検査で前立腺がんの存在が疑われる場合、前立腺生検を行うことを推奨しています。
ただし、上記検査で前立腺がんの可能性が低い場合でも、患者さんの年齢や家族歴(ご家族に前立腺がんの方がいるなど)、PSAの値の推移などで前立腺生検を勧める場合があります。
前立腺生検の方法の変遷
MRI画像の進歩に伴い、“前立腺生検”の方法にも変化がでてきました。従来の前立腺生検は、超音波ガイド下に、前立腺に均等な分布になるように10-12カ所針を刺すことで組織を採取していましたが、この方法では多くの前立腺がんが見逃されてしまうことがわかってきました。従来の方法ではがんの場所が正確にわからないため、針が的に当たらなければ診断ができないのです。最近はMRI画像でがんが疑われる場合に前立腺生検を行うことが多くなりましたので、MRIで異常を示す場所を狙って組織を採取する狙撃生検(Target biopsy)が広く行われています。しかし、MRIで異常を示す場所を、超音波の画像だけを見ながら細い針で正確に刺すことは決して容易ではありません。
MRIで疑われる部位を、正確に針で穿刺しなければ、生検の意味が薄れてしまいます。そこで開発された技術が「MRI-超音波弾性融合画像ガイド下前立腺生検」です。
MRI-超音波弾性融合画像前立腺生検システム『UroNav』
東京国際大堀病院では、従来の前立腺生検の課題を克服し、より正確な前立腺がん診断を行うため、「UroNav」を用いた「MRI-超音波弾性融合画像前立腺生検」システムを導入しました。「UroNav」システムはMRI画像をリアルタイム超音波画像と融合させる機能をもち、MRIでがんが疑われる部位を経直腸的超音波画像上に表示し、超音波画像上に生検部位を直接確認しながら(MRI−超音波弾性融合: エラスティックフュージョン) 前立腺生検を行うことを可能にしました。この最新技術を用いることで、前立腺がんが疑わしい部位をより正確に生検することが可能になりました。
「UroNav」システムは、超音波による前立腺の変形や動きを自動的に補正し、3Dの立体画像として表示することが可能です。この技術によって、従来の前立腺針生検と比較し、精密で信頼度の高い生検が可能になることが期待されています。